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蜂蜜

 そのあと、碧天が自分たちを追いかけてきたのは予想外だった。ここまでの道中、(ハク)と碧天はほとんど会話をしていない。(ハク)のほうが偵察をしているつもりがあったので、注目はしていた。けれど相手は名前くらいの認識しかないだろうと思っていた。そういう相手を案じて追いかけてくるのは、相手が誰であっても見捨てておかないという変わった価値観の持ち主くらいだろう。

 それでも蘇順達よりは(ハク)のほうが碧天との付き合いは長い。阿珠に至っては昨日出会ったばかりだ。それなのに、碧天に対する思いの強さは(ハク)とは雲泥の差がある。

 勿論(ハク)も感謝はしている。助けてくれたのは事実だし、一方的に巻き込んでしまったという思いもある。でも、特に阿珠のように強い思いを向けられるかというと、違和感がある。同じように感じなければならないというわけではないはず。そう思うが、一方でどうして自分はそう感じないのだろう、とも思う。

 碧天が戻ってきて、自分の作業を手伝い、自分の傷の具合を診たとき、確かに(ハク)はほっとした。自分が一人ぼっちになったような感覚があり、碧天が戻ってきてその感覚は消えた。

 なぜ碧天の『匂い』がわからないのだろう。わかれば、碧天が何を考えて自分を助けてくれたのか、理解できるだろうに。碧天が自分をどう思っているのかわからないから、こんなに頼りない気持ちになるのだ。

 診察を終えて「傷はうまく塞がってきている。歩かせるなら牛に乗れそうだ」安堵したのか、碧天の表情が緩んだのを見て、(ハク)はじわじわと熱が上ってくるのと感じた。

 碧天が何を感じているのかはわからない。だが、少なくとも(ハク)を助けてくれたのは事実だし、今も助けようとしてくれている。そこにどんな思惑があるとしても、自分は碧天に恩を感じるべきなのだ。それなのに、自分はぐずぐずと何を考えているのだろう。

 恥ずかしかった。自分の顔に熱が達し、目頭に集まるのがわかる。

 碧天はちょっと固まって(ハク)を見た。微かに眉が顰められる。困らせている、と思い、ますます(ハク)の胸は苦しくなった。

 「心配するな、絶対に団徳に帰れるから」と碧天は呟き、視線をずらして右手を伸ばしてきた。その右手が(ハク)の頭の上をそっと滑り、軽く二度跳ねた。


 走ってくる足音がして、碧天が振り向くと、蘇順がこちらに向かってきていた。蘇順は右手を上げて右手に握った瓶を見せた。「これ、持って行ってもいい?」左手ではさらに数本、抱え込んでいる。

 「それは?」「奴らに家にあったの。昨日見かけたから、思い出して。蜂蜜」

 その瓶は(ハク)にも見覚えがあった。石虎がくれた蜂蜜と同じ瓶だ。この辺境では甘味と言えばいくつかの果物と蜂蜜くらいしかない。果物も南から運ばれてくるものほど甘味が強いものではないし、砂糖もたまに運ばれてくるが、総じて値が張る。蜂蜜もこの辺りというより、錫金よりもさらに東の森林地帯の産物だ。決して安いものではない。蜂蜜を欲しがらない者はいないだろうし、子供や女性は特に甘いものを好む。

 だから石虎は、手土産として、あちこちで蜂蜜を配っていたのだ。   

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