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食事の風景

 安心したせいか、へたり込んだ阿珠を碧天は抱えるようにして、ぬるめの茶を飲ませている。額に触って微熱があることを確認し、思案顔で自分の口にも餅をちぎって運ぶ。まるで赤ん坊の世話をしているようだ、と(ハク)は思う。

蘇順のほうは『匂い』がかなり弱まっている。不安が小さくなったのだろう。そのうえどこか爽快感すらある『匂い』がする。一人で開き直って気楽になってしまったらしい。

 それはそれで腹立たしい。昨日、蘇順から被った被害を考えれば、自分自身は小さな傷で済んだと考えることができるが、玄に対する罪は重い。勝手に気分良くなられては不愉快だ。

 碧天が、外であったことの経緯をさらっと何でもないことのように説明した。とりあえずは4人の男たちはいなくなった。杜という男はあまり関わりたくなさそうだったという碧天の見立てが正しいのかどうか、(ハク)にはわからない。張という男は阿珠の舌を切ったらしいので、姿を消してもどこかに潜んでこちらに襲い掛かる機会を窺っている可能性がありそうだ。碧天がそういうことを言わなかったのは阿珠のためだろう。

 石虎は怪我をして、暴力を行使できない状態であることと、それを案じた衛が石虎を連れてここを離れたのは、安心できる話だ。二人を少しでも見知っている(ハク)にも、納得できる。怪我をしたと碧天は表現したが、お前が怪我させたんだろうと言いたい。阿珠を毛布で包み、寝かそうとしている様からはずいぶんな差がある。でも、碧天がやったのだろう。見方を変えれば、碧天が必要ならば相手を負傷させてでも状況を変えることができるのは、この場合有り難いことだ。

 同じことを思ったのか、「怪我ってどんな?あんた、石虎に何をしたのよ」と蘇順が尋ねた。

 (ハク)たちは火薬を使うことは知らされたが、碧天が戸外に跳び出した後、どうやって石虎を圧倒したのかは知らない。碧天は答えずに薄く笑うだけだ。蘇順は壁に立てかけた内刃の剣を横目で見た。「それは石虎の剣だよ」とだけ、碧天は答えた。

 今は扉を開け放って、あたりが見えるようにしている。石虎たちはもう戻ってこないはずだ。あとの二人はわからない。本当ならここから離れたほうがいいのだが、阿珠が発熱したのもあり、食事をしながら相談することにしたのだ。

 碧天には土地勘がない。蘇順と(ハク)には土地勘があり、体調も問題なさそうだが、戦闘能力はない。阿珠は土地勘がない上に体調も悪いので、牛が必要だろう。

 家畜小屋の扉は解放され、牛たちは手綱を解かれていた。杜が逃げる時か、それとも張の仕業かはわからない。どちらにせよ、牛はすぐに逃げたりしないものなので、衛が牛を引き出しに来た時でも、小屋の中で餌を食んでいた。碧天は衛たちが二頭の牛に騎乗するのを手伝い、石虎の罵詈雑言も全く耳に入っていないように聞き流して、綱で石虎を牛に括り付けてやった。

 もともと石虎たちが乗ってきた牛で、二人は去った。杜は引き出した一頭に乗って行った。碧天は血の跡を追う際に牛を一頭借りてきた。家畜小屋にはさらに三頭の牛がいた。これが張という男のものか、碧天は阿珠に尋ねる。

 阿珠は声は出せるようだが、はっきりしないしゃべり方で、(ハク)にはあうあう言っているようにしか聞こえない。「声は出さなくてもいい」と言う碧天にどうやって会話をするつもりだろうと思ってみていると、碧天の言葉に阿珠は頷いたり首を振ったりする。それだけでは十分でない場合があるようで、阿珠が低く唸っているときは背中を軽く叩き、繰り返し「大丈夫、問題ないよ」と言い聞かせている。

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