衛
都会の人間で、慣れない雪の降る中を牛の背に揺られて、白の傷の手当てをし、そのうえ怪我をした虜の世話もしていたようだ。きっと治療もしてやったのだろう。
彼女は王都から来た大きな商会の人間だ。令嬢ではないと本人は言っていたが、「それでもいいとこの子供には違いないな」という石虎の見立てにはうなずけるものがある。医者としての知識も、読み書きできる能力も、教わることのできる環境がもたらしたもののはずだ。
それに彼女はきれいだ。
あんなきれいな人は初めて見た。確かに白も蘇順も美人だと思うが、それだけだ。ずっと見ていたいような、辛くて見ていられないような、落ち着かない気持ちになるほどの美しさとは違う。
王都にはああいう人が他にもいるのだろうか?話に聞く貴族の目に留まるような美姫とは、ああいう人のことを言うのではないか?そうだとすれば、貴族のところには存在するような気もする。
衛はぼんやりとしたまま、鍋を取り、雪を中に詰める。室内に戻り、竈に鍋を置き、細い枝を選ぶ。藁に火をつけ、竈に突っ込む。
彼女はどうなるのだろう?今はそれが気がかりだ。
もともと3人をここに連れてくる予定はなかった。この廃村で冬を越すつもり自体すらなかったのだが、石虎の暴走で、村を出る羽目になり、どこで越冬をするか考えなければならなくなった。それでここを目指して出発したのだ。
越冬の準備はしていなかったけれど、避難所としては認められており、越冬のために物資を持ち込めば廃村で過ごすことに問題はなかった。
張と杜の2人も、ここが避難所として通知されたからこそやって来たのだ。
杜は一人だったらしいが、張のほうは虜を一人連れていた。それがあの舌を切られた子供だ。名を阿珠と言う。
酒が進むと聞いてもいないのに、張は阿珠の顛末を語りだした。
「奴は双子だったんだ」東の樹海に近い低地の村で見つけたのだと言う。もう一人の名は阿閔、容貌はとてもよく似ていたが、性格は違っていて、珠のほうがやや体力があって閔を庇い、閔はよく泣いていたらしい。
双子は珍しいので、さらに高い値が付くことが期待できたから、張はさっさと誘拐してきた。その時は4人で実行したのだが、追っ手に1人やられ、3人になった。途中の錫金で官警に見つかり、1人集合場所に現れなかった。
辺境を行くうち、示し合わせたのか双子が騒ぎ出した。谷川に面した狭い山道で、横一列にならなければ通れないような状態で、だからこそ迂闊に手を出せないことがわかっていたのだ。大の男二人より、子供の身軽さのほうが有利だった。両手は繋いでいたものの、手を使わないと危ないような道行きでもあったので、綱はかなり長く間隔を空けて縛ってあった。
現れなかった男が一番辺境の地理に詳しく、追っ手と官警を避けようと思えば、歩きやすい道は選べなかった。
子供の気持ちが折れなかったのも計算外だった。これが赤の他人の二人なら、もう少し楽だっただろう。双子は言葉にしなくとも通じるところがあるようで、お互いを頼みにするのも、どういう時にどう行動するかもよくわかっていて、手強い反抗が繰り返された。




