算段
「石虎は自分の出身地をどこだと?」蘇順は唇を噛んで頭を振る。
「では飛脚の本籍がどこかは?」本籍とは飛脚が所属する組織の所在地になる。飛脚は軍の仕事も請け負うために軍属扱いになるが、それは辺境だからこそだ。王都では一口に飛脚と言っても、民間人が民間人からの仕事だけを請け負っているところもある。国軍や親衛隊、それぞれの領主軍などは独自に飛脚を雇用している。軍以外にも宮廷や各役所ごとに飛脚のような役職を設けたり、外部に委託してやらせたりと様々だ。しかし辺境ではそのような区別はなく、基本的に集落と軍が飛脚を雇い、合間に民間人の用を賄っている。
蘇順の答えに碧天は軽く首を傾げる。辺境では飛脚の数は少ないので、調査はそれほど難しくなかった。領主軍をつつけば一応の情報は出てくる。集落は飛脚を一人置くのが普通で、いない所もある。その本籍と名前程度は入手したのだが、問題はその情報が実情と合っているかどうかだ。
「団徳の門衛をしていた人に聞いたが、皆同じく御須だと言っていた。蘇順の答えと一緒だが、こちらで入手した御須の飛脚と名前が違う」
団徳ではどうやらその本籍、名前で通していたようだが、他のところではどうだったのか、実際その本籍地では誰が飛脚をやっているのか、確認が取れていない。軍への届と違う人間が飛脚を務めることは禁止されているが、父親が亡くなって息子が届け出なしに引き継いでいたり、当人が移住するなりしていなくなり、仕方なく代わりの者が飛脚を真似事のように始めて届け出なければならないことを知らなかったり、と言う場合などがある。村長は届け出なけばならないことは知っているのに、それほど重大なことだと思わずに放置していたりするのだ。
「そうなると名前も信用できないわね。逆に本当のことが一つでもあったのかしら?役に立たない情報ばかりでごめんなさい」蘇順は肩をすぼめてうつむく。
昔、詐欺師の話を聞いたことを碧天は思い出した。その男は綿密に自分を嘘で固めていた。三日三晩語り続けられるほど、細かく嘘の身の上を紡ぎ、取調官は辛抱強くそれに付き合った。結局その男は別の事件で捕まった共犯者から、素性が暴かれた。その三日三晩の間に語った内容がすべてが嘘だったわけではなかった。結構本当のことも口にしていたらしい。真実を混ぜたほうが、信ぴょう性が増すからだろう。経歴のような客観的な情報は作られたものだったが、性格や感じたことに関しては嘘はあまりつかないものだ。
石虎がどの程度の嘘をついたのかはわからない。詐欺師というより匪賊と言う印象を受けたから、中には真実もあっただろうと思う。そう言えばただの慰めになる。碧天は「いや、そういう情報にも意味がある」と言った。
今は彼らの素性について深追いはできない。碧天は賊のいた家の様子について聞いたが、基本的にはこの牢と変わりないようだ。酒や食料が持ち込まれ、毛皮や分厚い夜具が目に付いたことくらいの違いしかない。「武器の類は見なかったか」
ここへ来る道中で、石虎は剣と弓矢、衛は短剣と弓矢を持っていることは確認している。石虎の剣はこの辺境ではありふれた、途中で折れ曲がった形の内刃のものだ。戦闘用と言うよりこの辺りでは枝を払ったり仕留めた獲物を捌く時にも使う、生活に密着した剣だ。衛の短剣は真直ぐな刺突用のもので、手に持つと拳の先に剣先が来るような形をしている。




