表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/236

 牢と言っても普通の家らしい、とまず思った。衛も何度か廃村には来ていたし、物資を運んだり、家の内装を変えるのを手伝った。板張りの床は衛の力作だ。その時は牢の話は出ていなかったから、衛は全く関与していない。

 それでもそういうものが設けられていることは全然意外ではない。この冬は本格的には使わないと聞いていたので、まだそこまで手を付けないのだな、と思っただけだ。いずれは作るのだろうとわかっていた。

 家畜小屋には、熾きの入った火鉢が入れられていて、それが柔らかい光源になっていた。しかし牢にはそれがない。落日の残光がある外のほうがまだ明るい。

 目が慣れると少しは見えるだろうが、火鉢は必要だ。三人を凍死させるつもりはない。三人を中に入れて、自分は火鉢を持ってこようと振り返ろうとした時、微かな呻き声が聞こえた。

 そして血の匂い。

 咄嗟に外へ飛び出て、身構える。声は家の中からした。この牢に誰か囚われているのか?怪我をしているのか?

 碧天という王都から来た商人の若者が、黙って灯りを差し出してくる。小振りの蝋燭だ。これも外套の懐から出したものだろうか。まるで衛が飛び出てくるのがわかっていたかのような周到さだ。前もって準備しておいたように思える。

 なにか仕掛けられているような気がして、蝋燭に手が出ないでいると、碧天がふっと鼻で笑った。それまでの知的な美女という印象が剥がれ落ちた。碧天は蘇順を足元に座らせてから、扉をくぐった。衛は我に返って、慌てて後を追い、家の中に戻った。

 蝋燭の火では十分な明るさはなかった。扉を入ってすぐは土間で、何も置いていない。碧天が屈みこんで呟く。「血だ」

 衛も下を探すと、小さな飛沫の跡がある。戸口から家の奥へと続く。量としては僅かなもの、掠り傷だ。

 再び家の奥から呻き声がする。それから床に何か当たる音だろうか。荒い息遣い。いや、息を吸おうとしているのか?

 碧天が素早く奥へ走り、衛はそのままついていく。板張りの床は他の家と同じだ。血の飛沫が見える。それほど多くはない。牢と言っても鉄格子があるわけではないのだな、と思う。

 碧天の背中が衛の視界を遮っている。その碧天が屈み、肩越しに人の足が見えた。色はわからないが、長靴を履いていて、床の上を小さく叩くように動いている。

 「私の声が聞こえますか?私は医者です、どこか苦しいところがあるんですか?」碧天の明瞭な声が聞こえる。碧天が医者だと名乗った。この人は怪我をしているんだ。

 虜であるはずの碧天に、先へ行かせたのは、恐らくこういうものを目撃することになると予想していたからだ。碧天には医術の心得がある。自分よりも慣れているだろう。衛は偵察をしている。それなりに戦闘訓練はしているが、実のところそれほどの手練れではない。真面目に訓練はしていても、戦闘の経験はそれほどないのだ。

 それにここは牢だ。ここにいる怪我人は衛の仲間ではなく、虜、衛たちの獲物だ。手当は一応されているのだろうか?それとも傷物にしたくない獲物ではなく、邪魔になった者か?もしかして敵なのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ