医術
ちょっと短めです。
釣針が刺さる。寒さのおかげなのか、想像よりも痛みはましだ。傷口を縫われることは初めてだが、以前孫維が小刀で怪我をして縫う破目になった一部始終を見たことがある。団徳ではなく、錫金の親類の牧場に滞在しているときだったので、錫金の医者に処置してもらえたのは幸運だった。傷はすぐに治ったが、処置自体はもっと時間がかかっていたように思う。医者には助手もいて灯りを持たせたり傷口を洗わせたり、縫っている間も親類と話をしたりして一刺し一刺しに時間をかけていた。
気がつくともう、縫い終わっていて、石虎が白の傍に来た時には、あて布を肩に回して固定し、下着を整え終わっていた。碧天が手を離すと、白は自分で長着と外套の首元を閉じた。
「それは?」石虎は碧天の手元にある、革包に目をやった。碧天は手早く革を閉じ、再び白の懐に手を突っ込んで、革包と瓶を片付けた。
「お前は医者なんだな」石虎の言葉に、碧天はくるりと向き直って笑った。「とんでもございません。私のは勝手にあちこち齧っただけの、自己流です」「自己流で、傷を縫えるとは思えねえよ」と石虎が言い、白もそれには同感だった。
「本当に自己流なのです。医学を修めるには、ご承知の通り、大きくは西源流、梵流、唐漢流の三派に分かれていますが、どれかの流派の師に弟子入りして、学ばなければなりません。私は弟子入りもせず、各流派の書物や教えを都合のいいように真似ているだけです」愛想のいい表情でつらつらと言う。「私はただの商人見習いです。ご存知では?」
「王都の商人だろ。団徳まで隊商を率いてきたのはあんたじゃないのか?」「その通りです。率いてきたのは私ではありませんが」「大商会のご令嬢が来たって大騒ぎだったよ」「ご令嬢でもありません」
碧天はまだ未成年であり、会頭のご令嬢ではなく、遠縁の者で、見習いとして働いていると説明した。「血縁ではあるので、他の者よりは機会に恵まれているのは事実ですね。今回も商売に関しては任されておりますので」「若いのに偉いんだね?」
笑顔のまま、碧天は首をかしげて言い放った。「偉くはありませんし、令嬢でもありませんので、身代金はご請求なさらないよう、お願い致します」
その言葉が放たれた瞬間に、石虎から濃い『匂い』が一気に立ち昇った。それは火炎が燃え上がるのに似ていた。胡椒のような刺激と、熟しきった芒果のような甘さが入り混じっている。
それまでも、石虎からは甘い『匂い』が漂っていた。白に向けられたものではなく、碧天へと向かって流れている。
その『匂い』は、白がずっと好意の表れだと考えていたものだ。だから白はその『匂い』を嬉しく感じていたのだが、今碧天へ向けられている『匂い』を嗅ぐと疑問が湧く。果たしてこの『匂い』は、相手を好きだと思う気持ちなのかどうか。
自分にとって、利用価値のある、獲物のような人間を見つけたことからくる、喜びからではないか?




