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すれ違い

 蘇順に引きたてられながら、なぜか腹の中で笑いのような感情がこみあげてくる。

 石虎はいつも他人のいない所で声を掛けてきた。口説き文句だったから、まあそんなものかと思っていたが、他人に聞かれ二股がばれると都合が悪かったからだったのだ。本気で好きだったわけではないのが救いだが、それでも好かれていると思ってちょっと浮かれていた自分が笑える。

 蘇順はそんなに好きなのか。

 二股かけるなんて、碌な奴じゃない。

 成人前の未成年者と恋愛に持ち込むのは、ある意味、覚悟がいる。自分のために性別を変えさせるのだから。でも、そんなふうに考えるのはむしろ少数だろう。獲物を仕留める感覚のほうが多いのではないか。

 蘇順は自分をどうする気なのか。殺す?そうすれば石虎が自分一人を愛するようになるとでも考えているのか。

 蘇順は決して馬鹿じゃない。なのに、どうしてこんなことをしているのか。

 同時に思う、馬鹿は自分だ。石虎を信用して、隊商の情報を渡した。それで被害が出ることはないと思うけれど、紛れもなくこれは罪だ。そして玄を刺して、自分を殺すかもしれない蘇順の心配をしている。なんたる馬鹿。


 団徳の北側の柵に大きく回り込んで、壊れた柵の近くに二頭の毛長牛を繋いでおく。見つかるとかなりまずいが、万が一毛長牛が逃げてしまうと移動に大きな制限がつく。石虎は衣良まで帰りたかった。

 周囲には人影はない。雪は勢いを強めたようだ。石虎が黙って先を歩く。蘇順の所在については衛に心当たりはない。蘇順の攻略については石虎一人でやっていたからだ。

 攻略、というほど手練手管が必要なかった。石虎が笑いかけると、蘇順はすぐ打ち解けた様子を見せた。衛は他にもいろいろと必要なあれこれを抱えていた。容易く落ちた手駒に余計な手をかける暇はない。

 打ち捨てられた納屋らしい木造の建物に入る。壊れてはいないように見えるが、戸の立て付けは悪かった。近くに人がいたら、開け閉めする音を聞きつけられてしまっただろうが、雪はその音を消してくれた。

 納屋の中には古い毛布が二枚、畳まれて置いてあった。蘇順が畳んだのだろう。「昨夜、ここで蘇順と会ったんだ」と石虎が言う。「ここにいるかと思ったんだけどなあ」

 「…柵のところで、血の気配がした」衛が眉間に皺を寄せる。「ここではしない。別の心当たりは」

石虎は頭を掻く。「あいつの家か、それとも(ハク)の小屋かな。村長の母屋とは別棟で隠れて行動できないこともないからな」「蘇順は一人暮らしか?」「蘇順の姉が錫金近郊に嫁いでいて、妊娠中なんだよ。で、お袋さんはこの冬は出産と育児を手伝いに行って不在だ」

 二人は急ぎ足で、小屋を出た。裏路地伝いに村の中へ進んでいくと、衛が石虎の袖を引いた。「血の匂いがする」衛が先に立ち、石虎は腰の剣に手をかけてついていく。

 村の中心にかなり近づいたところで、石虎が「これ以上行くと見つかりそうだな」「だが、血の匂いは確かだ。一人で行く。お前はここで待て」石虎が頷いたのを確認して、衛が気配を消す。

 石虎が手袋をした手で、上腕を擦っていると、思いのほか早く衛が戻ってきた。足早に来た方へ戻り始めるのを追う。「毛長牛だった。だけどさっきの柵を毛長牛が通ったとは思えない」



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