美女行
村長夫妻に招待されて、にこやかな笑みを浮かべる碧天は今日も清々しい程の女装である。
まあ、まだ成人前だ。どんな格好であろうとも特に問題がないのが未成年者の扱いである。男女どちらかになった途端、山ほどの礼儀作法や規範が押し寄せるだろう。だから可能な限り、未成年者でいるつもりの碧天である。
村長と打ち合わせをする必要があり顔合わせをお願いしたのだが、村に到着した時にはそのあたりを盛容に丸投げしたので、碧天が一人で現れたことに村長は少し驚いていたようだ。夫人のほうは既に会っているので、素直に歓迎してくれた。
今回盛容に丸投げしなかったのは、別の用事があるからである。そちらの方が大事だし、疲れる仕事なので当然盛容の担当だ。
それに碧天には別の心づもりもあった。
先日盛容と話していた事件について、いくつか引っかかる点がある。
予想よりも早く初雪が降ったので、盗賊の活動は下火になるだろう。巡回商人もいなくなるし、辺境の住民は基本的には皆村に籠る。衣良の事件でも窺えるように、恐らくこの盗賊は力押しで一つの村を襲えるほどには強くない。いろいろ情報を集め、罠を仕掛けて襲い掛かる必要があるのだ。ならば、冬の間はどこかに潜んでいるだろう。
ということは、暖かくなれば再び動き出す。その間にこちらも集められる情報を探し、罠を探る。
南の村の事件との類似性はあまり考えないことにした。なんとなく思いついただけの勘のようなものだ。案外そういう勘は当たることが多いが、100年前の事件なので、直接の関わりはさすがにないはずだ。
錫金近辺の襲撃事件との関連はまだわからない。関係があるとすれば、かなり広範囲に動いていることになる。衣良の事件と同じくそれほど大規模な隊商は襲われていないので、やはり規模の小さな盗賊なのか。小さいから身軽に動けるのかもしれないが、手口などの共通点に欠ける。どちらにも被害者で、ろくな証言ができる者がいない。巡回商人たちは皆殺しだった。
村が襲われたのは初めてだ。違う盗賊なのかもしれないが、それなら別の問題点が浮かぶ。複数の盗賊団が活動するほどの治安の悪化は、統治の責任問題になる。
ともかくも情報が欲しい。衣良の事件に限って言えば、その情報収集と罠の敷設に盗賊はそれなりの手間と時間をかけているはずだ。そして、恐らく次の標的の心づもりもあるだろう。冬の間は活動しないにしても、いくつかの村で情報収集だけは既に始めているのではないか。そのうえで、一番条件の整った衣良を襲ったのだとすれば。
村外の人間が村に入るとしたら、まず顔を見せるのは村長のところだ。
団徳のような小さな村では、他に役人らしい役人はいない。何度も回ってくる飛脚や巡回商人は毎回顔出しする必要はないだろうが、これからこの辺境を回るにあたっては必ず挨拶をする。そうでない一回だけの客人は、村長か夫人に挨拶するように指示される。それを無視したとしても、村民が村長に知らせるだろう。村の人間は全員顔見知りで、見知らぬ人間が隠れる隙間はない。
一回きりの客人が細かい情報や、罠を仕掛けられるだろうか。人を替え、数度訪れているのか。
それとも隠密のような手合いがいるのかもしれない。気配を消したり、変装が得意な六感持ちも存在することはわかっている。六感持ちではなくても、訓練次第では碧天のように変装紛いは可能なのだから。




