過去の事件
「行商人の襲撃は、街道の要所を張っていれば、事前にそれほどの情報は必要ない。だが、村の襲撃となると話は違う。まあ、辺境の集落は駅府でもなければ、それほどの防壁はないだろう。一度、巡礼のふりをして訪れれば、集落の造りはわかるし、村長の家もわかる。だが、団長のことまで知れるものか?」
「一度来ただけの奴に問われるにはいささか不自然だろうよ」
「村民のほとんどが寝静まっているのも気になる。昔、南方の村が盗賊に襲われて、皆殺しにされた事件を聞いたことがあるか」「いつの話だ。最近じゃないだろう」「王紀203年の事件だ」盛容は目を見開いて、思わず「馬鹿か」と声を上げた。「知るわけないだろう。親父でさえ生まれてない。盗賊だって生まれちゃいないだろう」
碧天はニヤリとした。「あら、それは御免あそばせ、先輩。法学の授業はお取りでない?」
盛容は渋い顔になってしばらく唸っていたが、「20年後に偶然が重なって真犯人どもが逮捕されただろう。その時に下された判決が、討論の議題として提示されたことがあったぞ」という碧天の言葉に、表情を解いた。「あー、判決に先々代の和王が乗り出して、裁判所の権限を侵犯したと言われた事件か。思い出せたぞ。…その事件と、今回の襲撃とどうつながるんだ?」「手口がね」
「村人の寝込みを襲ったという点では似てるが、和王の事件は軍剣で滅多刺しだったろう。衣良は二人だけだし、一突きだけの殺しだ」「だから言ってるだろ、寝静まっているのが気になるって」
盛容は100年前の事件の概要を思い出そうとした。確か、真犯人逮捕に繋がったのは、下手人の一人だった子爵家の元従者が、阿片窟の片隅で自白を垂れ流していたことだった。
子爵家の嫡男が、ちっぽけな村の村長の娘を娶るために、その村で式を挙げた。参列したのは、村人全員、子爵家からは当主の猛反対のために誰も出席せず、当主夫人が息子の式のために、せめてもの気持ちとして従者たちに贈り物を持たせて派遣した。従者たちは式の後、一軒一軒村の家を回って、金貨とお菓子、そして香を配った。それらはどれも貴族でしか手に入らない物、特に香を焚くのは蚊よけのものしか経験のない村人たちのために、従者たちは実際に一つずつ香を焚いてやった。
「香の中に夾竹桃が混ぜられていたんだよな。嫡男は刺されてはいなかったが、結局毒にやられて助からなかった。平民を娶るような長男は死んでも仕方がない、って恐ろしい親もいたもんだ」盛容が身震いする。「衣良でも毒が使われたってことか?その点は調べていないが、村長も団長の家族も生きているし、毒を摂取したような症状は訴えていないみたいだぞ」
「この辺では夾竹桃は馴染みがないな。南から持ってくることも可能だが、あれは結構毒性が強いから、扱いが難しい。違うものだと思う。まあ、確信はない。それよりも、何か持ち込まれていないか、調べろ。村外の誰か、顔見知りの商人でも、村人からでも、今までにない何かを持ち込んでいないか、一見毒とは思えない物でも、入ってきた物がないか、探してくれ」




