未性
石虎は男だ。
貧しい家では、一人しか男にはなれない。男になると人頭税を課せられるし、兵役の義務もある。だから長子が成人の儀式を迎えるころまでに、誰が男になるのかを決めるのだ。一番力が強く、勇敢な、男に向いた子供がいれば、その子がなる場合もあるし、長子がなることもある。家が貧しくても、稼ぎのいい仕事に就く見込みがあれば、石虎のように男になれるし、豊かな家では後継ぎが絶えることを恐れて何人か男にする場合もある。
口説かれるのは、女だ。
白自身はまだどちらでもない。成人していないから当然だが、孫維のように成人する一~二年前から、どうするか決めている者も多い。孫維のように両親や周囲の希望と、自分の望みが一致する例は意外と少ない。白のように、周囲からの圧力がないのも珍しい。親はいないし、伯母はともかく村長はどちらでもいいと言ってきた。孫維がいるから、村長の仕事を継ぐ者はいるし、どちらかにならなければならない、なってもらいたいという事情がない。
女を選ぶ者は、貧しいから、兵士など務まらないから、女の方が性に合うから、様々な理由があるだろうが、結構多そうなのが、男に口説かれたから、というものだ。
男は家を継ぐから、当然家系を繋ぐことを考える。そこで嫁を探すのだが、年上の女は大抵結婚している。成人の儀式をせずに、未性のまま、年を重ねることもできるので、成人する者は皆それなりの意志を持ってどちらかの性を選ぶのだ。ただ貧しい、というだけなら未性のままでいるほうがいい。但し、未性のまま16歳以上になると、兵役は逃れられないから、徴兵の噂が立つと成人の儀式が頻発する現象が起きる。
それに女には出産の義務が課される。出産すると、領主から祝い金がもらえるし、定期的に手当てが出たりするので、女になったら、出産する心づもりの者が多い。つまり結婚の当てがあるのだ。
すると未婚の男はどうするか。
未成年者を口説くのである。
そして、自分と結婚するために女になってもらう。
孫維のように、成人の女と出会って、結婚することもあるだろう。しかし、真実はともかく、成人したのに未婚の女は、結婚するつもりだった男に捨てられたのだ、という噂が立ちやすい。それだけ、儀式の前に女に向いていると思われる未成年を口説いて自分に惚れさせ、結婚するという立場に憧れる風潮が強いのだ。
まさか、自分がその対象になるとは。
村の未婚の男には、そういう態度や『匂い』を感じたことはない。幼いころ、伯母から逃げて身なりを構わなかった時期の印象が未だにあるのかもしれない。自分で身支度を整えられるようになってから、特に問題はなくなったと思っているのだが。
正直なところ、白は自分が女らしいとは考えていない。容姿は地味なので、見ようによってはおとなしい風に思えるかもしれない。あまりしゃべらないのも、控えめに見える要因だろう。男になろうとする人間は、大抵活発で、力自慢だったり、無鉄砲な性格だったりする。穏やかな性格の人間でも男になるが、そういう人は自分の意志というよりも、跡取りだったり、仕事のために男である方が有利だから、男を選択する傾向がある。




