隊商の情報
村の駅府に入った旦商会の連中は、この数日の間、5~6人ずつの人数毎に出入りしているらしい。それでも、総員の半分くらいの人数が、駅府に滞在しているようだ。
「何か売り出されてる?」と雑貨屋の慎さんに訊くと、「干し香蕉を6貫仕入れたよ。あと黒糖。珍しいと言えば、魚の干物かね。ここらでは海の魚は馴染みがないから、少しだけにしたけど。そうそう、細工用の玉石も入れた。冬の手仕事に使う人がいそうだと思って。まだ他にもいろいろあるみたいだけど、とりあえずはそんなところだよ」という返事だった。
今はどこの家庭も冬を越すための物資を蓄えることを優先する。燃料と、基本的な食糧、家畜の餌。燃料の薪や麦は隊商の荷の中にはほとんどなかったと思う。値段の割に嵩張るものだから、隊商の商品としては不向きだ。肉は自分たちで家畜を屠ることで用意するし、野菜は遠方からは運べない。隊商が運んでくるのは、珍しい物や高価な物になる。そういう物は小出しに売り出されるだろう。
「仕入れは様子見できるの?まだあいつら、しばらくここにいるってこと?」「雪が降る前に、次の駅府に移動できるか様子を見てるみたいだよ。あと数日で決めるんじゃないかね。移動する前にもう一度卸の話をしてくれるみたいだから」白は相槌を打ちながら、慎さんにまたその情報を聞く必要があるな、と思う。
奴らがいなくなったら、もう厄介事の心配はしなくていい。全員とは言わない、せめて碧天だけでもいなくなってくれたら、不安は消せる。
碧天だけが白を警戒しているように思えるからだ。
いよいよ草地の草が尽きた。あとは雪が降るまで、村の周囲の畑で牛たちを放す。すべての畑の作物は収穫済みだが、そのうちの1/3は休耕地で、草地になっている。草を食べさせることで、牛たちの蹄が土を耕すことになり、その糞が栄養となる。
白個人の冬支度は一応終わった。最低限必要なものは揃ったので、後はほかに何かないか確認しつつ他人の手伝いや、あったら嬉しい余分の物資などを手に入れる。
碧天から支払われた銀貨を懐に、慎さんの店に向かう。油断なく周囲に視線を走らせつつ、足早に移動する。昼下がりのこの時間帯は、大抵の人が朝からの作業にひと段落つけ、休憩なり軽食なりをとる。軽食と言っても食事処などない田舎のことだから、手持ちの弁当か、その場で手早く調理した食事を食べるのだ。
案の定、すれ違う人はいなかったのだが、慎さんの店が通りの先に見えた時、その店の扉が開いた。
続いて、人影が現われ、白は咄嗟に手近の建物の壁に寄り添う。他に見ている者がいた場合にちょっと立ち止まっているようにしか見えないはずだ。あからさまに隠れるほうが怪しい。
人影は近づいてくるにつれて、その踊るような独特の歩き方が目に付く。
石虎だ。
『匂い』を感じると同時に、白に気づいた石虎がぱっと表情を明るくする。漂ってくる甘い『匂い』。白はちょっと肩を竦め、方向転換をした。
物陰を伝うように、裏路地から、自分の小屋の裏へ回る。石虎と話しているところを誰にも見られたくないが、村の中では誰にも見られない場所なんてない。村では誰もが顔見知りだし、隊商の面々にも顔を知られているのだから。




