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団徳へ

 錫金から八つの町や村を通過し、いよいよ故郷の団徳に近づいている。

 団徳は100戸程度の小さな村落だ。村人はほとんどが段々畑で麦や芋を栽培し、牛や山羊を飼って暮らしている。最低限の衣食住は村落内で賄えているが、それ以上の余裕はない。この辺りではありふれた、辺境の村の一つだ。

 唯一の特徴と言えば、霊山山脈を越える峠のうちの二つに一番近い村落であるということ。そして今はほとんど顧みられていない霊山山脈を司る古い神々の祠が数多く残っている地域にあるということくらいだ。

 玄の足取りが重いので、ようやく村に帰って休ませてやれるとほっとする。厄介事にも巻き込まれないで済みそうだ。隊商自体はさらに進むのだろうが、(ハク)は団徳で離脱しようと決心した。『密偵』のあいつは何か言ってくるかもしれないが、構わない。

 『密偵』は、牧場で刃物を突き付けてきた奴のことだ。名前を知らないので、勝手にそう呼んでいる。(ハク)自身には『匂い』でばれるのだが、『密偵』の六感は気配を消すようなものらしい。そのために『密偵』の役割を請け負っているのだ。

 隊商についていくように言っていたが、体調が悪いとか何とか言えばいいだろう。隊商側もこの先に進むのに毛長牛が足りないと言うのなら、再度団徳で集めればいい。(ハク)が連れている牛は団徳の牛たちだし、金を上乗せすれば誰かが連れていってくれるだろう。(ハク)と玄が抜けるだけだ。

 団徳に近づくにつれ、隊商の雰囲気が明るくなる。一行は野宿にも慣れているが、やはり村について宿に泊まれると思うと全員の気分が上昇するようだ。鼻歌を歌ったり、雑談で笑い声が上がったりする。昼時の休憩時には、いつもは無表情の副長の関路が、柔らかい表情で全員に「特別だ」と言って干芒果を一切れずつ配った。このような甘味は珍しいから、自然と顔がほころんでいく。その後碧天が茶を配り、今後の予定を帳面を見ながら話しだす。

 団徳は大きい街ではないが、峠への拠点であるため、領主が管理する駅府がある。代官もいないので普段は閉められているが、結構簡単に使うことができる。今回のように平民の商会でも、宿に泊まり切れない場合は、そこを使って宿泊し、馬や牛を休ませることができる。団徳より先の山村は規模は団徳と似たり寄ったりだが、駅府は周辺の他の村にはないので、他よりは長く逗留して辺境の情報を収集するという。気温と気候の変化にもよるので、どれほどの期間になるかは未定らしい。

 「ついでに商売もしましょうか。団徳では何が売れそうですか?」と碧天が牛飼たちに尋ねる。「酒!」「お前がだろう」「砂糖なら間違いなく売れる」「ちょっと珍しい物は?」「ここではそんなに売れないよ。錫金でもっと売っとけばよかったのに」雰囲気のせいか、牛飼たちの口もほぐれている。いつになく砕けた口調になっている。

 碧天はちょっと肩を竦め、「情報収集で忙しくてね。錫金ではあまり商売はできませんでした」と言った。「錫金の南で盗賊が出たという情報がありまして。安全の確保のためにも確認しなければなりませんでしたから」

 (ハク)の心臓が大きな音を立てて、跳ね上がった。

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