隊商
初めまして。
白は深く被った頭巾の陰から、街道を辿る隊列を見つめた。王都でも有数の商会から派遣されたという隊商はざっと30人ほど、それに州都幹地で雇われた白たちも含めれば60人を超えるだろう。北の辺境を巡業する隊商としては破格の多さだ。一体何を目当てにこんなに大勢の人間を送り込むのか、理解に苦しむ。
白は静かに長く息を吐き、傍らを行く毛長牛の背に左手を載せる。現金を手に入れる機会を逃すまいと、村でかき集められた牛たちだ。一頭一頭に目をやって、任されている20頭の毛長牛が落ち着いていることを確認する。しばらく注意を逸らしても毛長牛は流れに従って歩き続けるだろう。毛長牛の温いような感覚を手放してから、白は隊の人々の観察を始めた。
ものごころついた頃には、白は六感を自覚していた。珍しくはあるが稀ではない、五感とは異なる感覚のことを六感と呼ぶ。呼び名は一つだが、内容は千差万別だ。視覚や聴覚を鋭くした程度のものから、全く別の力と言っていいものまで。異質なものは殊更に秘匿される。白も口外したことはない。自分の六感はそれほど異質なものだとは思わないが、それを知った周囲の人間がどんな態度に出るのかはわかりきっていた。知られないほうが役に立つ感覚でもある。そう、今のように、密かに相手を探るときには。
王都から来た者たちは、一人を除いて一様によく鍛えられた体つきをしていた。細身の人間もいたが、きびきびとした歩く様から、きちんと筋肉がついていることがわかる。牛飼たちと違って、周囲に油断なく視線を走らせているところを見ても、商人だとはちょっと思えない。護衛に雇われた傭兵だろうか。時折声を掛け合っているが、あまりしゃべらないところは傭兵らしくないような気がする。
王都からは馬を使ってきたそうだが、白が合流した時点では馬を連れてなかった。州都からまだしばらくは馬でも通れるが、これほどの荷物を運ぼうと思えば、毛長牛が100頭以上必要になる。この先の町では調達が難しいので仕方なく州都で牛に替えることにしたのだろう。馬を見ることはあまりないので、できれば見てみたかった。騎乗してきたのだろうか。州都でも騎馬は滅多にいない。もし騎乗してきたのだとすれば、普通の隊商ではない。
だったら何なのか。
牛車は15台、御しているのは牛飼で、隊商の者たちは歩いているが、3人だけ牛車に乗っている。最後尾の牛車に乗っている一人は明らかに後方を見張っており、先頭の牛車に乗っている一人は前方を見張っている。どちらかがこの隊の長であろう。
真ん中の牛車に乗っているのが、一人、異質だ。
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