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若き日


 ぼやけていた色が、やがてはっきりと像を結び始める。そこには幾人かの若者が映っていた。侍烏帽子を付け、思い思いの色と柄の狩衣を身に着けている。武士階級の者達であるようだった。

 その映像は不思議なものであった。二人を包み込むように展開しながら、どこか平面で、そして、当然のことながらそこに映る誰一人、二人に干渉しなかった。また、二人もその映像に干渉できなかった。音も、声も聞こえない。

 ただ、時の流れのどこかの姿が、まるで屏風絵のようにそこにあるだけだった。屏風絵と違うのは、それが動いているという事だろうか。

「若い時の、儂、か」

入道がそう零すと、映像にひとつ、波紋が出来た。その波紋の通った後は一人の若者がはっきりと映し出され、残りの若者は少しぼやけて見えた。

 彼は、何を話しているのかはわからないが、楽しそうに笑っていた。傍にたくさんの同じ身分と思われる若者達と連れ立って歩いている。時に肩を組み、時に背中を叩きあっていた。その瞳は、未来をみつめ、輝いていた。自分の力で、出来ない事などないというように。それは、今の入道には持てない物であった。既に時の流れから離れた入道には。それを知ってか、ふ、と、入道は寂し気に笑った。

「あの頃は、自分は何者にでもなれると思っていた……が、身分を超えることまでは、考えていたかどうか……」

入道はまた深く息をした。自分の胸に手を当てて、自分の心をさぐるように静かに息をする。

「……否、心のどこかにその野望を持っていたからこそ、儂は上り詰める事が出来た」

入道はもう一つ深く息をした。

「烏」

「は、」

「お主が知っておるかどうか知らぬが、儂の一族はそも、それほど高い身分では無かった。むしろ、人に馬鹿にされるような身分であった。だからこそ、儂はそのような立場から抜け出たいと躍起であった」

「そのお気持ちは」

「叶った」

にっと口端を上げて入道が笑う。その顔は映像の中の若者とそう変わらなかった。ただ、胸に持つ野望を、形に変える、それを成し遂げたものであるという誇りがある事が違うと言えば違うところだった。

「それで」

烏が言うと、入道は遠くを見るような目をした。

「……さあて、な」

果たしてその事が良かったのか、悪かったのか。その事で自分の心がどれだけ癒えたのか、何故か今となっては思い出せなかった。

 

若き日の姿が、やがて、滲んで消えた


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