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時ノ雫 ~Falsi Nemesis~  作者: tori
第一章『クロノス』
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第6話「復讐の女神」


 その光景を目の当たりにして、顔を青ざめる九条朱音。あまりの惨状に、如月と焔も顔をしかめてしまう。


「千鶴さん、二人とも死んでるじゃないっすか」

「……」

「どうするんすか? ここまでバラバラにされたら、もう生き返ることすらできな──」

「うるさいッ!!」


 苦言を呈する如月に怒声を放つと、雨氷千鶴は刀を構えて、紙袋を被った人物へと斬りかかる。


「何をしているサ?」

「うぐッ……!?!」


 紙袋を被った人物は、飛びかかる千鶴に膝蹴りを食らわせ、胸倉を掴み上げる。


「感情を支配できなくてどうするサ? それでも戦争を終わらせた赤の果実の一人サ?」

「くッ……!!」

「情けないサ。キミを育ててくれた救世主から一体何を学んできた──」


 そう言いかけた瞬間、背後から月影雅人が奇襲を仕掛け、紙袋を被った人物を大剣で数メートル吹き飛ばす。


「おい千鶴。少し落ち着けよな」

「……」

「オレたちは死守できなかったんだ。今はこいつらをどうにか追い払うしかない」


 雅人は片膝を付く千鶴を一喝すると、赤いドレスを纏った女性を睨みつけた。


「ね、ねぇ……あ、あいつらは誰なの……?」

「復讐の女神ネメシスと非難の神モーモス」

「ネ、ネメシスって……」

「そうっす。あんたの世界を滅茶苦茶にした黒幕っすよ」


 赤色のドレスを身に纏う復讐の女神ネメシス。紙袋を被り、黒のコートを羽織ったモーモス。黒幕となる者たちが揃っていることで、九条朱音は思わず後退りをした。


「ネ、ネメシス……あなたが、どうしてここへ……!?」

「クカカッ、なんだクロノス? 私が寛大な心で、キサマらの計画を見逃すとでも思っていたのか?」


 ネメシスは両手を床についているクロノスの髪を雑に引っ張り上げる。


「私はなぁクロノス? 他の大間抜けなバカどものように、交配種共に敗北したり、魂を売ったりしないんだよ」

「ぐぅッ……!?」

「今この瞬間の為に私は五千年以上も前から、交配種共への復讐だけを考えてきた。この憎悪に勝る希望など……ん? どこにあるんだ?」


 わざとらしく耳を傾けるネメシスは「ああそうか」と半笑いでクロノスの髪から手を放すと、


「希望は──あそこに転がっている肉塊だったなぁ?」


 千春と終夜の無残な遺体へ視線を向け、その場で高笑いをした。


「その笑い声、イライラするんだよな……!!」


 ネメシスに苛立った雅人は、大剣に炎を纏わせ、炎の斬撃を飛ばすが、


「ダメサ。キミたちの相手はボクサ」


 モーモスがネメシスの前に立ち、拳銃を片手で構えると、一発の空砲で跡形もなく斬撃をかき消した。


「雅人さん。これは流石に詰みっすよ」

「……んなこと、オレだって分かってる」

「どうするんすか? ネメシスとモーモスは自分たちだけじゃ……正直キツイっすよ」


 雅人は大剣を握り直し、モーモスと睨み合いを始める。


「創造力、キャパシティ……。キサマら交配種共は、千年前の生き残りか?」

「……そうだと言ったら、何かくれんのかー?」

「クッカッカッ、ならばキサマらは敗北の道筋を辿っているわけだ。世界が一つになってからは、創造力も消え失せているだろう。いつただの人間に戻るのか、見物だなぁ?」

「コイツ、ここまで分かってるのかよ……」

「……事前に聞いていたでしょ。ネメシスは私たちのことを理解しているって」


 雅人の横に刀を構えた千鶴が並び、一呼吸置くと、モーモスの後ろに立っているネメシスを見据え、


「第一キャパシティ雨露霜雪(うろそうせつ)──時雨(しぐれ)


 ネメシスの真上へと瞬間移動し、刀を力強く振り下ろす。


「クカカッ、それがキャパシティか?」

「ッ……!!」

「交配種のクセして、大層な力を手に入れたものだ」

豪雨(ごうう)ッ……!!」


 刀を素手で受け止めながら嘲笑うネメシス。千鶴は刀を右手で、鞘を左手で握りしめ、ネメシスへの猛攻を始めた。


「やめろ千鶴! そんなに力を無駄使いしたら──」

「キミも使えばいいサ」

「あぶねッ……?!」


 雅人はモーモスに後頭部へ銃を突きつけられ、間一髪で空砲の直撃を免れる。


「お前、弾が入ってない銃を使ってるけどさー? それ、かなり危ないんだろー?」

「気になるなら、当たってみればいいサ」

「おいおい、勘弁してくれよな……」


 モーモスと交戦を始めた雅人。その光景を眺めているだけの如月と焔に、九条朱音は疑問を抱き、二人にこう声を荒げた。


「な、何で助けないの……!? あんたらも協力して戦いなさいよ!!」

「さっき言ったじゃないっすか。もう詰んでるって」

「詰んでるって……そんな簡単に諦めんな!」


 朱音が如月の左腕を掴んだその瞬間、避難場所の扉がバタンッと開く。


「やはり奇襲を仕掛けてきたか──ネメシス」

「キサマは……大地の女神レイアか」

「ぐっ?!」


 ニヤリと笑みを浮かべたネメシスは、斬りかかるレインを片手で地面に叩きつけると、首元を足で踏みつけた。


「私は言っただろうクロノス。ネメシスは私たちに時間を与えてくれるほど、緩い相手じゃないと」


 レイアは険しい表情を浮かべながら、自身の両脇に一条と九条へ使いとして送ったラビットとオリーブを控えさせる。


「ラビット、オリーブ。あの二人の元へ」

「分かった」

「……分かりました」


 レイアは二人にいくつかの指輪を手渡し、背負われた一条と動揺している九条の元へと向かわせた。


「クカカッ、キサマは何をするつもりだ?」

「クロノスにとっての希望は(つい)えたが……私にとっての希望はまだ(つい)えていない」

「ほぉ、ハッタリか?」

「ふん、ハッタリかどうか──」

 

 レイアがクロノスへ真剣な眼差しを送れば、クロノスは何かに気が付き、力強く頷いた。


「おいオマエら」

「……何すか?」

「オマエらもこの指輪をはめろ」

「え? 焔たちも?」

「そうです。貴様らもはめるのです」

「けどこの指輪は──」

「いいからはめろ!」


 如月は赤色、焔は青色の指輪を無理やりラビットとオリーブに装着させられた。


「如月、焔。その二人を頼んだぞ」

「レイアさん? 一体何をするつも──」


 如月がそう言いかけた瞬間、クロノスが立ち上がり、九条朱音たちへと片手をかざすと、レイアもまた朱音たちへ手をかざした。


「この者たちへ──時間を操る力を与えよ」

「この者たちへ──空間を操る力を与えよ」


 二人が高らかに声を上げれば、朱音たちの周囲に懐中時計の魔法陣が展開される。


「これは……止めないと面倒なことになるサ」


 レイアの企みに気が付いたモーモスが阻止しようと、銃の矛先をレイアへと向けるが、


「させるわけないだろー?」

「邪魔しないでもらえるサ?」

「どっちが邪魔してんのかよく考えろよなー?」

「……っ!」


 大剣でモーモスへと斬りかかり、狙いを定める邪魔をすると、光のレーザーをモーモスの足元から噴出させた。


「クカカッ、最後の最後まで無駄な足掻きを……」


 ネメシスは鼻で笑いながらも、目の前で魔法陣を展開するクロノスへ指先を向けた。


「明鏡止水──」

「……キサマ」


 しかし雨氷千鶴が首元へ圧し掛かるネメシスの足を片手で持ち上げ、


「……ッ!」


 起き上がる瞬間にネメシスの顎を蹴り上げると、


「──氷雨ひさめ


 ネメシスを刀で一度だけ大きく斬り上げ、青色の斬撃と共に壁際まで吹き飛ばした。


「雅人……!」

「はいはい!」


 雅人と千鶴は無惨な遺体の側に転がっている青と白の指輪を拾い上げ、指にはめながら全力疾走で朱音たちの元へ転がり込む。


「この世界の大地を救うために──」

「この世界の未来を救うために──」

「ね、ねぇちょっと!? 一体何が起きて──」


 朱音が焦りながら、如月に声をかけた瞬間、


「「──時と空間を越えよ」」


 指輪をはめた者たちは、その場から忽然と姿を消してしまった。




────────────────────────────




「……あ、あれ?」 


 朱音は気が付けば、街中の交差点に立っていた。人々が賑わい、高校生たちが食べ歩きをしている光景。朱音はワケが分からず、辺りをキョロキョロと見渡す。


「こ、ここはどこなの? 私はさっきまであいつらと一緒にいて──」


 立ち止まっていれば通行人と肩がぶつかり、たまたま街中に設置されたテレビが目に入る。


『本日は何と……あの大人気モデルの内宮智花さんに来ていただいております! それではこちらへどうぞー!』

「あ、あれってベルゼブブ……!?!」


 テレビに映し出されていたのは、朱音の教室で暴食ゲームを開催したベルゼブブにそっくりな女子高生。朱音は目を丸くして、テレビに食いつくようにして魅入った。 


『今年ももう終わりますが……来年はどのような一年を過ごしたいですか?』

『そうですね。来年は高校二年生になるので、志望大学に向けて受験の準備や、高校生活を楽しんでいきたいです』

『それでは……"二千十九年"は彼氏とか色沙汰とかあったりとか!?』

『あはは、あまりそういうのには興味がないので……』

「ぶっこみすぎでしょこの司会……」


 朱音は司会の空気の読めなさに苦笑していると、


「……は?」


 あることに気が付き、もう一度テレビの番組をよく見直してみる。


「に、二千十九年……?」


 テレビ番組には『2019年はどんな年?』というテロップが入れられていた。朱音はそれを目にして、その場で硬直する。


「わ、私が住んでいた時代って……ご、五千年だったから……」


 朱音はみるみるうちに顔が青ざめていく。


「こ、ここってもしかして──」


 見たこともないアニメのキャラクターに、見たこともない機械。そのどれもが、歴史の教科書に載っていたものばかり。朱音は息を呑むと、


「──さ、三千年前の世界!?!」


 両手で頭を抱えながら、思わず声を荒げてしまった。


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