6.なにこれなにこれ。
ばん、と開いた扉の先。てっきり魔王が玉座に座ってその横に囚われの王子がいるのだろう。誰もがそう思った。しかしそうではなかった。
そこにいたのは、ふかふかの椅子に座った王子、イレクスと、その前に跪いて花束を差し出している魔王だった。
「…………」
流石のカメリアも一瞬止まった。何してんのこいつら。
カメリア達が来たことに気付かないのか、魔王は王子に花束を渡しつつ、言った。
「な、頼む!ワシの嫁になってくれ!」
「だ、だから僕男なんですってば……!」
「男でもいい!魔族の何かあれやこれやで何とかする!案ずるな!」
「案ずるよぉ……」
ふぇえ、と涙目になるイレクス。それを聞いてカメリアは我に返った。唖然とした気持ちは瞬時に怒りに変わる。私の最愛の王子に何してくれてんの、と。
カメリアは剣を抜くと魔王に切りかかった。
「死ね魔王!!」
「は!?え、何!?誰!?」
「リア!」
カメリアの姿を確認すると、イレクスは椅子から飛び降り、カメリアに抱きついた。カメリアはそれを片手で軽々受け止める。
「イル!怪我は無い?何もされてない?私が来たからもう大丈夫だからね!」
「うん!!」
ぎゅうう、とカメリアにしがみつくイレクス。カメリアは優しい言葉で宥めてやりながらその額に軽く口付けを落とす。
「みっ、皆の者!!曲者じゃ!出合え出合え!!」
魔王が慌てて叫んだ。しかし誰一人来る気配は無い。
「この城に残っている魔族は貴様だけだ。魔王」
イレクスに話しかける時とは全く違う冷たい声。魔王はぴゃっと背筋を正した。
「そっ、そんな筈あるまい!この城には四天王だっておる!それらがやられるなど……!」
「殺った」
「あっはい」
きっぱりと言い切るカメリアに魔王は何も言えなくなった。正直呼んでも来ないし確かに気配も感じない。ならば嘘では無いのだろうと本能的に理解していた。
同時に、目の前の女がめちゃくちゃ強いことも本能でわかっていた。勝てる気もしなかった。
であればここは逃げるしか無い。逃げて、体勢を整え直して、再度挑むしかない。魔王は機を見るに敏だった。
「……ふ、ふはははは今回は退いてやろうしかし次はこうはいかぬぞ小娘!!」
超絶早口でそう言うと、魔王は姿を消してしまった。イレクスを抱えていた為にカメリアも素早い対処は出来なかった。
「逃がしたか……」
「追いますか、姫」
「リア……」
イレクスは不安そうな眼差しでカメリアを見上げた。僕を置いて行くの?と言外に言われているような気がして、胸が潰されてしまうような悲しみがカメリアを襲う。カメリアは慌ててイレクスを抱き締めた。
「大丈夫だよ、イル。置いてったりなんかしないから。ほら、一緒に帰ろう?」
「うん!」
優しい声音にイレクスは満面の笑みを浮かべた。それを見て安心したカメリアは騎士達に告げる。
「……退いたのだからよしとしよう。王子の奪還は叶った。皆の者、礼を言う。国へ帰ったら褒美をとらせよう」
わっと騎士達は勝ち鬨を上げた。しかし何もしてない。皆の心は一致していた。褒美は辞退しようと。
「さぁ、帰ろう」
「うん」
そうして皆はカメリアの魔法により、来た時と同様、あっという間に帰国するのだった。