4.どうしてどうして。
「征くぞ」
カメリアの号令に皆が声を上げた、その時だった。強い風が吹いたかと思えばそこには一人の男が立っていた。
魔族だろう、その耳は不気味に尖り、普通の人間の倍くらいの身長があった。男はその長い体躯を丸めて両手をポケットに入れていた。そして魔族らしい、下卑た笑いを浮かべていた。
「これはこれは勇ましい勇者様だ」
「……誰だ、貴様」
「俺はトゥルボー。魔族四天王の一人さ」
「……そうか」
トゥルボーの名乗りにカメリアは興味が無いようだった。いや、無かった。全く興味が無く、どうでもよかった。
普通ならば四天王、と聞いただけで震え、縮み上がり、命乞いをする者もいるだろう。
トゥルボーもきっとそんな反応が見られるに違いないと期待していた。そうして人間が恐怖に怯える顔を見るのが好きだった。
しかし、その願いは叶わなかった。
「それで、その四天王が何の用だ」
ひどく普通にカメリアは問うた。まるで今日の夕飯は何だ、とでもいうくらいの気軽さで。
カメリアの反応にトゥルボーは面食らった。恐れるどころか至って普通にしている。
しかも遠目には気付かなかったがこの勇者は女らしい。それもまた意外だった。こんな辺境の地に来る女なんているとは思っていなかった。
故に少しばかり憤っていた。多少は怯えるだろうと思っていたのに全くそんな気配は無い。これが屈強な大男ならばまだわかるが、女だ。
普通なら魔族を見ただけで恐怖に泣き叫ぶ筈だ。そのどちらも無いなんて、こいつはよっぽどイカレてる。それとも舐められているのか。
思いながらトゥルボーは構え、カメリアのその澄ました顔を恥辱に歪めてやると決めた。
「決まってんだろ?のこのこやって来た勇者様を殺すのさぁ!!」
「そうか」
カメリアは一言だけ言って、剣を抜き、納めた。目にも留まらぬ早業だった。尤も、騎士達はこの二日でだいぶ見慣れていたが。
一瞬でトゥルボーの首と胴は泣き別れ。どさりと肉塊は地面に倒れる。勝負は瞬間的に決着した。
「征くぞ」
四天王?何それおいしいの?くらいのテンションで四天王の一人との対戦を済ませ、カメリアは歩み始めた。
全く臆する様子の無いその勇敢な背を見ながら騎士達は思った。四天王であのレベルなの?マジで俺達要らなくない?四天王って魔族の中で魔王の次に強いの四人じゃないの?何でこんな弱いの魔族?何でそんな強いの姫様?俺達より遙かに鍛錬してますね?どうやったらそんな時間確保出来るの?剣術に魔術だけじゃなくて学問とか王家の色々もあるでしょ?何で?
次々と湧き上がる疑問。けれど勿論、誰一人それを口にすることはなかった。