3.それからそれから。
カメリア達の暮らす国、アルベロ王国は西の大陸ラスチェーニェにあった。大きな大陸で、幾つか国があるが、一番大きな国がアルベロだ。
そこから魔王城があるカラミタ大陸までは決して楽な道程ではない。北にあるパゴーダ大陸よりも更に北、極北と呼ばれる位置に存在していた。
普通の者ならばそこにたどり着くまでに命を落とす可能性すらある、そんな場所への進軍だった。
騎士の中には多少怖じ気付いている者もいた。行軍自体もだが、魔王の存在に恐怖を感じたのだ。
今までこの世界において、魔王というのは存在しているが存在していない扱いだった。それというのも千年程前に勇者が魔王城での壮絶な戦いの末に封印していたのだ。
故に存在してはいるが特に気にするものでもない。そんな扱いだったし、最近の若者に至っては「魔王?おとぎ話の?」くらいのノリだった。
なので今回魔王が王子を攫った、という報せはアルベロだけでなく、あっという間に世界中に知れ渡った。
神職に就いている者は世界の終わりに恐怖したし、識者は何故魔王が復活したのか調べるべきだと言った。
また腕に覚えのある者は成り上がる為にパーティーを組み、魔王城を目指そうともした。何も出来ない民達は、世界はどうなってしまうのかという混乱の中、それでも日常を続けようとしていた。
そんな世界で真っ先に魔王城に着いたのは、カメリア率いるアルベロの騎士隊だった。因みに二日で着いた。
本来ならば何日もかけて大陸を縦断し、何日も船に揺られて海を渡り、やっとたどり着くカラミタ大陸。
しかし先述の通り、カメリアは魔術が堪能だった。一切の躊躇い無く転移魔法を使い、一足飛びでカラミタ大陸に着いた。
そうして魔王城まで異常な速度で進軍した。ここでもやはりカメリアは魔法を使った。自らを含めた騎士達の移動速度を強化したのである。いわゆるバフを自分達にかけたのだ。
なのでかなりチート気味に、カメリア達は魔王城までやってきた。
途中現れた魔族はカメリアが蹴散らした。カラミタ大陸、それも魔王城付近にいるのだ、それなりに強いはずだが怒髪天をつく勢いのカメリアに敵うものはいなかった。
その勇姿を見ながら騎士隊長、リリオは思った。俺達要らなくね?と。また、その下にいる騎士達も思った。姫、強すぎね?と。
しかしどちらもそれを口にはしなかった。魔王の強さは計り知れないからである。
もしもカメリアに何かあれば自分達にどんな罰が与えられるかわかったものではない。それに敬愛するカメリアの愛するイレクスが囚われているというのに、ただ待っているなんてこと、出来るわけがなかった。
故に無言でついて来たが、想像より圧倒的に早く着いてしまったので、何とも微妙な気分ではあった。もう少し、こう、気分が上がる何かさぁ、と思いつつ誰も何も言わない。行軍が始まってから、剣を抜いたのはカメリアだけだったりする。
誰よりも早く敵に反応し、瞬間的に屠る。ぶっちゃけ魔族より魔族らしかった。勿論誰もツッコミはしなかったが。
何はともあれ魔王城。その前に立ち、カメリアは言った。
「皆の者。これが魔王城だ。これより突入する。先陣は私が切る。リリオは殿を頼む。後の者は幾つかの小隊に分かれ、私と共に先陣、陽動、隠密、残党処理、救護と役割を果たせ」
「はっ!」
びし、と気合いの入る騎士達。それを見下ろす者がいることにはまだ誰も気付いていなかった。