2.たいへんたいへん。
「ひ、姫様!カメリア姫様!!」
カメリアが中庭で日課の鍛錬をしていると、血相を変えたメイド、ヴィンデが走って来た。
「何」
汗を拭いながらカメリアが答えると、メイドはおろおろとした様子で告げる。
「い、今、報せが入って、王子様が魔王に攫われたと……!!」
「……何、ですって?イレクス王子が……?」
メイドの報告を聞いた途端、カメリアの態度が変わる。すっと表情が消え、纏うオーラに禍々しいものを感じた。
「……わかった。魔王殺してくる。兵の用意を」
「え、いや姫様?」
「ぶっ潰す」
(あ、もう何言ってもダメだ……)
何かを察したメイドは黙り、騎士隊長を呼びに行くことにしたのだった。
◆◆◆
兵の用意はすぐだった。カメリアが魔王城に向けて挙兵する、と騎士隊長リリオに告げてものの十分もかからなかった。
それくらいにカメリアの様子はただ事ではなかった。愛用の剣を地面に立て、その上に両手を乗せた仁王立ち。不穏なオーラを身に纏い、さながら歴戦の戦士といった出で立ちであった。
逆らったら首が飛ぶ。物理的にも比喩的にも。故にリリオは全騎士に何をおいてもさっさと来い、と異例の集合をかけることになったのである。
カメリアの前にずらりと並んだ騎士逹。何事だろうかとカメリアの様子を窺う。
「皆の者。突然呼び立ててすまない」
凛としたカメリアの声が響く。騎士逹は姿勢を正し、カメリアの言葉を聞いた。
「我が許嫁であるイレクス王子が魔王に攫われた、と報せが入った。故にこれから魔王城に向けて進軍する」
ざわつくかと思ったが、騎士達は静かに聞いていた。誰一人口を開かなかった。というか何か喋ったら殺される、と怯えていた。
「突然の為、あまり万全とは言えないかもしれない。だが、何が何でも王子をこの手に取り戻す。どうか、力を貸してくれないか」
頭を下げたカメリアの言葉に異を唱える者はいなかった。この国に暮らす以上、カメリアとイレクスがどれだけ仲睦まじいかなんて五歳の子供でも知っている。騎士逹は皆剣を掲げ、カメリアに従う姿勢を見せた。皆、カメリアとイレクスの事が好きなのだ。
「ありがとう、皆の者。それでは、只今より王子奪還の為の進軍を開始する。目的地は魔王城。目的は魔王の討伐及び王子の奪還。……厳しい旅になるかもしれないが、よろしく頼む」
おお、と騎士達が声を上げる。こうして、魔王城への進軍は開始された。