第七話 尻尾アタック丸々太。
「ギィ……ゴグ……」
「そうだ! おまえの名前は今日からミノルだ」
なんとなく嬉しそうなリザードマン(ミノル)。 ちなみに“ミノル”とは、俺が小ニの時に最初にコンビを組んだヤツの名前だ。
「俺はタカシだ。 二人合わせて『タカ・ミノーズ』だな!」
タカ・ミノーズの再来である。 人生、何が起こるか分からない。 ちなみに初代タカ・ミノーズはミノルの転校に伴い幕を閉じた。 向こうの世界のミノルは元気だろうか……
「ヴァカ、ギィゴゥグ……」
「そうそう、一緒にやろうな! 目指せ異世界の爆笑王だ!」
「ウゴゴゴゴ」
なんとなくミノルも嬉しそうな声を出す。
行けそうだな!
俺は密かに決意を新たにした。 それは、この世界に爆笑の渦をもたらすことを、だ。
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……そんなこんなで一ヶ月が過ぎたわけだ。 ミノルは俺の従者のように側にいるようになった。
「いやはや、探しましたぞタカシ殿!」
「おまえはウザいよ。 あと口が魚臭い」
「ははは! 参りましたな!」
あの後、俺はさながらサリバン先生(※)のようにミノルに日本語を教育した。 (※生まれつき目、耳、声の身体障害があったヘレン・ケラーの障害を克服させた奇跡の家庭教師)
空中に水の塊を浮かべ、ミノルに教える。
「ミノル、これが“水”だ。 ミ・ズ」
「ビ・ズ」
「そうそう! 出来るじゃねーか!」
「ビ・ズ」
「よーし! よーし! よし!」
出来た時はまるでムツゴロウさんのようにワシャワシャと顔を撫で回す。
基本、ミノルは無表情だが、なんとなく嬉しそうに見えた。
ある程度意思疏通が出来るようになったある日、俺は思い付きでミノルに裏声を教えてみた。
「ミノル、アーーーーッ!(裏声)」
「あーーーーっ」
「おぉ! 普通の声に聞こえるぞ! よし! そのまま話続けるんだ!」
「あーータカシ殿ーー!」
「おぉ! クリアに聞こえるぞ! やるじゃねぇかミノルゥー!」
ワシャワシャワシャワシャ
キュウッとミノルの瞳孔が窄まる。 これはミノルの嬉しい合図だった。
そうしてミノルはベテラン家臣のような野太い声を発することが出来るようになり、今ではお互い軽口を叩けるようにまでなった。
ミノルの住処はもう少し奥の沼地にあり、数家族が住む集落になっているというので一度挨拶がてら赴くと、会う住人全員が腹を見せて手足を畳み出した。
どうやら俺は“神”だと思われているようだ。
“ジョバジョバ”とは、リザードマンの言葉で“神”という意味らしい。 いやいやわかんねーよ!
しかし、どこの世界も子供は無邪気だ。 大人たちが腹を見せている横で、平気に俺とミノルに走り寄ってくる。
どちらかというと子供の方が表情がわかりやすい。 口を開けて“わーい”みたいな顔をする。
うむ、次世代も明るそうだ。
ミノルは集落では次期代表らしく子供たちにも慕われ、俺に習った言葉なんかを教えているようだ。 最近は生活に使える知恵なんかを欲しがったりする。
例えば火の起こし方だとか、肉の焼き方だとか、なんてことのないことだが、ミノル達にとっては革命的な出来事なんだろう。
俺は、単になんでも与えてもミノル達の為にならないと思い、最低限の原始的なやり方しか教えていない。
これは『成長とは、与えられる刺激に加え、自分でしていくもの。』という俺の持論による。 伊達に中間管理職として何人もの新入社員を育ててはいないのだ。
その期待にミノルは大いに応えてくれた。 もちろんコンビとしての練習は欠かさない。
「いいかミノル、最初に俺たちが出会ったあのシチュエーションコントは絶対にウケるはずだ
だからあれを練習するぞ」
「御意」
①まずミノルが俺の頭に小石をぶつける。 矢だと子供が真似をするといけないからだ。
②次に俺はキョロキョロと辺りを見回して左に歩くから、後ろから来たミノルがガバッ! と俺の頭に噛み付く。
③そこを俺が見事なブリッジで耐える。 「ばかッ! やめろッて! いででででででッ!」
と、俺のジタバタ感が炸裂する。 ここが爆笑ポイントだ。
④抜け出したところへ「死んでしまうわッ!」のセリフと共にスパーン! とミノルの頭を叩くから、ミノルは尻尾アタックで俺を吹っ飛ばす、と。
⑤舞台の果てまで吹っ飛んだ俺は、「尻尾アタック丸々太」というシュールなボケでおしまい。
という完璧な流れだ。
「……てな感じだ。 わかったな」
「御意」
地面に木の枝で絵コンテを描きながら丁寧に説明する俺。 うなずくミノル。
「よし! じゃあ始めっか!」
「御意」
そこで、思わぬ事件が起こることになった。




