第三話 リザードマンにやられた振りをしよう。
とりあえず俺は森の入口の伐採から始めた。
バッサバッサと大剣で木や草をなぎ倒していく。
超気持ちいい!
木々が倒れた後には青空が見える。 太陽が高くなってきたから13:00位かな? とさりげなく時計の時間を合わせておいた。
時計くらい俺もしている。 今年の誕生日に自分へのご褒美で買ったオシャレ時計だ。 こんなことなら釣り用のアウトドア時計でもしてくれば良かったが、今は仕方ない。 まずはなんとなくでも時間が分かれば良しとするか。 壊れたらイヤなので右の籠手に融合させ、強度を増してある。
それはそうと、防具もなんとなく涼しい感じがする。 海の力が付与されているのか? 俺には分からないが、気分の問題かも知れない。
にしてもこの大剣も一振りするだけで50mは視界が拡がる。 なんとも気分爽快だ。
自然破壊をものともせずに進んでいくと、フルーツのようなものが実っている木を発見した。
真っ赤に熟れたマンゴーみたいなやつが木からぶら下がっている。
もぎ……と一つもいでカジュッ! と頬張るとなんとも言えないジューシーさが口一杯に広がった。
これは……モグモグ……リンゴとパイナップルを足してさらに爽やかにしたようなミラクル果実!!!!
カジュ! モグモグ!
カジュ! モグモグ!
ンマイ!
ンマ過ぎるッ!
時を忘れてカジュカジュしているとドンッ! と首筋に衝撃が走った。
なんだ? いってーな!
首筋に手をやると、なんか刺さっている。 うん? ブシュッ! と抜くと、木の矢のようなものだった。
なんだ? 敵か?
首筋がなんだかジンジンする。 毒っぽいな。
手を額にかざしてよ~く辺りを見回すと……いた! アイツか!
遠目にリザードマンぽいヤツが第二矢を構えているのが見えた。
とりあえず毒は分解してと。 さてさて、相手はどうやら明らかに俺を狙っているようだし、どうするかな……
ヒュン!
風切り音が聞こえると同時に俺の額に毒矢が刺さった。
よし、やられた振りをしよう。
一瞬でそう考えた俺は、反動で頭から吹っ飛ぶように演技をしながら死んだフリをした。
ドサ……
いやーリザードマンかー。 なんだか胸熱だなー。 いるところにはいるんだなー。
……などと思いながら、リザードマンが来るのを静かに待つ。
ザッズー、ザッズー、ザッズー
独特の足音を出しながら、多分リザードマンが近付いてきた。 目を瞑りながらムフフ……とドッキリ仕掛人気分の俺!
ドンッ!
いきなり刃物のようなものを首に突き付けられた。
獲物、狩りました! みたいな。
いつも魚にやっていることを自分がされるとは夢にも思わなかった。
その躊躇の無さは称賛に値する。
ツン、ツン
足先でつつかれている気がする。
血があまり出ないから迷ってんのかな……
さて、ここでどんな風に覚醒するかがポイントだな。
「グギャ」
リザードマンが一鳴きすると、俺の剣を柄から抜こうとしやがった。
「それはダメだッ!」
さっき作ったばかりなのだ。
バチッ! と目を見開いて威勢良く叫んでみる。
「グァーッ!」
目の前にあったワニ顔の顎が開く!
ガブッ!
食われた!
俺! リザードマンに食われた!
これは美味しい!!
「ばかッ! やめろッて! いででででででッ!」
俺はわざとブリッジの体勢を取り、頭をリザードマンに噛まれながらリアクション芸人さながらの騒がしさでツッコミを入れる!
しかし誰もいないッ!
誰も見ていないのだ!
ギリギリギリ……と万力のごとくリザードマンは俺の頭を噛み砕こうとしてくる。
う~ん……美味しくないよ。 (二つの意味で)
などと自分の状況に突っ込んでみても、何も変わらない。
う~む……とりあえず、このリザードマンは多分、知能がありそうだ。 ならば、なんとか教育すればボケとツッコミの概念を理解出来るかも知れない。
そうだ、こんなところに一人で暮らすよりも、笑い合える仲間がいた方が楽しいに違いない。 うんうん、それがいい、まずはそうしよう。
思い立ったが吉日。
俺はリザードマンの顎に手を掛けて、いとも簡単に口を広げて頭を抜き出した。