第二十二話 イルカと友達。
サメ魔人を筆頭にミチコと俺は海中を突き進む。
ミチコはサメ魔人に蛸足をぴったりと吸着させて小判鮫のように付いている。 俺はもちろん競歩だ。
海底の珊瑚礁が陽の光に照らされ、色とりどりの模様を見せてくれる。
競歩での海底ハイキングは最高だ。
でこぼこした道を高速競歩で突き進む。 泳ぐのと違い、競歩では海水による抵抗が大きいが、そこは魔人。
ウォーキングポイントを察知して予め海水を切り裂いているのだ。 当然美しい珊瑚礁にもダメージを与えない。
そこも当然、俺は紳士だからな。
ややしばらくすると、突き進む彼方に白いものがチラチラ泳いでいる姿が見えてきた。
イルカである。
近付けば近付くほど山のようなでかさの3匹のイルカが段々見えてくる。
いやーでかいね! まるでマウンテンだね!
海中を歩きながら俺は考えた。
“海中”と“空中”は=になる。
海底=地上、
海中=空中、
海面=成層圏だ。
ならばイルカたちとは、ちょっとでかい鳥だと思えばいいのではないか?
そう思い立ったのだ。
海中と空中の違いは大気の粘度、抵抗の違いだ。 空気よりも水の方が抵抗の値が高い。 つまり抵抗0で動ける俺の方が圧倒的優位! さすが俺だ。
「タカシさーん!」
ん?
「じゃあ自分らここで見てるんでー」
「わかったー」
ミチコとサメ魔人を置いて、さらに俺は競歩で近付いていくと、でかい! でかすぎる! ちょっとでかい鳥なんてとんでもない! まるで“飛ぶ島”である。
悠々と海中を駆ける3匹の巨大イルカ。 とても幻想的だ。
うーんラッセン。
そしてその瞬間、俺はイルカたちの泳ぐ海を消した。
突如として消えた海にイルカたちは当然海底にピチピチと跳ねている。
空中=宇宙。
先程の理論だ。
鳥たちは宇宙では生きられない。
ならば、
イルカたちは空中では飛べないのだ。
俺は一際でかいイルカの顔のそばに近付くと、眉間の辺りに影の手を差し込んだ。
ここからは手探りだ。
イルカは眉間の辺りに超音波を出す器官があることは知っていた。 つまり超音波を感知して、それを解析して言語化出来ればコミュニケーションは可能なはずだ。
海中でも逃げられるとは思わないが、いつもの慣れた空間ならイルカたちに舐められる可能性は高い。
圧倒的優位である状況に、野生は弱いのだ。
魚系特有の陸に上がった時のビチビチもでかく、いちビチビチ当たり震度3くらいは来る。
しかし俺は魔人。
地震などは屁でもない。
ただ、美しい珊瑚礁を傷付けないように地震を相殺するなど細心の注意を払った。
コイツら3匹がビチビチするだけで普通の土地ならば被害が及ぶだろう。
さて、
一際でかいイルカの眉間に手を差し込んだところ、ウォンウォンと超音波が響いてきた。
結論。 これを言語化はムリ。
ただ、その超音波から泣いているっぽい印象を受けた。 わかんないけど。 でも感覚って大事。
とりあえず俺はイルカを落ち着かせるために、静かなさざ波のような振動を眉間に震わせる。
途端、イルカの目がウットリしてきた。
イケる。
しばらくそうしてると、イルカは目を瞑りグーグーとイビキをかき出したのだ。
寝た。
俺は残りの2匹も同じように眠らせた。
体が乾くと可哀想なので、簡易海水シャワーで湿らせておく。
よしよし、とミチコたちの元へ行くと、ミチコとサメ魔人はポカンとしていた。
「なぁ、外海ってどこだ?」
「タカシさん、マジ半端ないッス」
「ミチコゥ、外海ってどこだって聞いてる」
「あ! すいません! えーっと、外海はタカシさんの元いた島の向こう側ッス!」
「ほーん、分かったわ。 ちょっと置いてくるから待ってて」
「ビュルベルビャブゥビョルベビュミュ」
「あんだって?」
「なんだか見届けなくちゃ行けないからついていくらしいッス」
「わかった」
そうして俺はイルカたちを見付けた海流に乗せて外海に運んでいった。




