第二十話 武人の心。
「あぁ……まぁいいか」
その場に残された俺は仰向けになり、渡された焼き魚をバリバリ食べながら思いに耽った。
あの悪魔にも何かアイツなりの理由があって、きっとアイツはそれを話していたんだろう。
想像でしか分からないが、俺に取り憑いた影野郎がアイツの敵で、例えばアイツの家族に何かをしていたとしたら、そしてそれをアイツが知っていたら……突然の攻撃にも、その後に泣いたことも納得がいく。
アイツにとって影野郎は憎き仇だとしたら、突然の攻撃ではなく、以前の戦闘の続きなのだ。
しかし、自分の攻撃の全てが敵わず、さらに敵と思った影野郎が情を見せてきたら……
もしも俺が職業軍人なら、相手も仕事なんだと思うかも知れない。
もしかしたら、アイツは名のある戦士なのかも知れない。 自分も戦士として、たくさんの敵を屠ってきたのかも知れない。
「戦争……か……」
俺が元いた世界の戦争とは、政治手段の一つだった。
ミチコたちのように統制が取れている集団がいるとしたら、それはもはや“国”だろう。
影野郎は自分のボスにとって東のボスが怨敵だと言っていた。 影野郎のようなヤツがたくさん配下にいるなら、それはきっと国同士の戦争のようなものなのかも知れない。
影野郎のように、主君に忠誠を誓うヤツもいれば、俺の妄想の中の悪魔のように、家族のために戦うヤツもいる。
結局、一番最初に直接痛みを受けるのは現場にいるヤツらなのだ。
悪魔のアイツはなんというか、武人に感じられた。
怒り、泣き、ため息をつき、静かに話し、水を飲み、魚を食らう。
その仕草はとても人間臭かった。
ようは悪いヤツには見えなかったのだ。
まぁでもこれは俺の妄想だ。 俺には想像もつかない文化や風習だってあるだろう。 だが俺にはアイツが悪いヤツには思えない。 出来るなら今度はきちんと言葉を理解して聴きたいものだ。
俺はそう思いながらただ夜空を眺めていた。
「あ! タカシさん無事ッスか!?」
頭の方からミチコの声が聞こえる。
「おー」とミチコの方を見ると、ズラリと海の精鋭と思える面々が鋭い目付きでこちらを見ていた。
ズイ……と一際でかいサメ魔人みたいなヤツが細長い三股の槍を携えてこちらへ出てくる。
「ビョルベ、ビュルベルビャブゥ」
なんか言ってる。
「ミチコゥ、なんて言ってんの?」
俺は立ち上がりながらミチコに問い掛ける。
「えーっと、“悪魔はどうした?”って感じッス」
「逃げた」
「え?」
「飛んでったっていうのかな?」
「わかったッス」
そうやってミチコを通じてサメ魔人とやり取りを始めた。




