第二話 バカンスにスーツと革靴は似合わない。
なんだかんだで“住めば都”とはよく言ったもんだ。
初日にサーベルタイガーと巨大海蛇を仕留めた俺は、まずは浜辺で手早く解体し、“一人バーベキューの開催”を目論んだ。
解体といっても簡単だ。
空気と空気の間に真空を作り、かまいたちのような真空の刃でちょちょいと料理する。
ちょうどアレだな。 ガチな“エア包丁”みたいな感じ。 超切れ味いいのよ。
その他の工程は割愛するが、サーベルタイガーとシーサーペントはパパッと新鮮な食材に変わった。 釣りだ、釣りの時と一緒。
こうなると味付けが欲しくなる。
塩は余裕だ。 海水から無限に作れる。
水も空気中の水分を集めれば無限だ。
火も起こせる。 灰も一瞬で作れるからアク抜きも簡単だ。
野菜と甘味が欲しい。
探しに行くか。
ビーチの裏側は崖に囲まれており、獣道らしき通りは鬱蒼とした森が広がっている。
南国っぽいから果物なんかはあるだろ。
解体したお肉は真っ白な塩でカッチカチに固め、外に作った焚き火の下に埋めておいた。
塩包み焼きだ!
ちなみに水が飲みたくなったら口元に水球を出してチューと啜る。
なんとなしにンマイ。
やっぱ空気が違うんだろうな。 南国らしく、甘い感じがする。
そこで俺は気付いた。
バカンスにスーツと革靴は似合わない。
生地が傷むのもイヤなので、ちょちょいと森の入口にある木を切り倒し、乾燥、組み立てて簡易クローゼットを作った。
風の力を使えば力なんていらない。 ふわっふわと資材も運べる。
ついでに高床式倉庫みたいのにして、寝床も作る。
うむ、上出来だ。
先程のサーベルタイガーの毛皮を乾かし、鞣して床に敷くといい感じになった。
牙もチョチョイと磨いて飾っておく。 いいね!
シーサーペントの鱗は超固くてナイフにぴったりだ。 俺は必要ないけど、大量にある。 なんか役に立つかも知れないから捨てずに取っておこう。
よしよし、いい感じだぞ。
崖を背にした高床式倉庫はセキュリティも良し。
完璧!
サーベルタイガーの毛皮の上をゴロゴロゴロゴロ転がって遊ぶ。
楽しい。
35歳、床ゴロゴロ。
ふぅむ。
こうなると、ふかふかのベッドが欲しいな。
衣食住は生活の基本だからな!
着るものもここにマッチしたい。 っていうか冒険者チックにしてみたい。
RPGでも基本は装備からだ!
布か……
そうなると、今着ているシャツとパンツはかなり貴重だな。 大切にしなくては。
そう思った俺は全裸になり、目の前にお湯の塊を空中に浮かべる。
そこにポイッポイッとパンツとシャツを放り込んで、ゆっくり水流を回した。
空中洗濯機だ。
そんなことをしなくても、生地の中の汚れだけを分解すれば済むのだが、気分の問題なのだ。
無駄は無駄ではない。
自分が社会に溶け込んで生きていくためには大切なことなのだ。
さて、サッパリしたところで下着を装着すると、次に欲しいのはやはり武器と鎧。
格好から入る俺としては、ここは譲れない。
“森へ果物を採集するために装備を整える”
リアルRPGだ。 このお使いイベントを達成する為に、ぜひとも最新装備が欲しい!
いや、いらないんだけどね装備。 でも欲しいだろ?
まずは剣。
土や砂から金属を分離させ、固い成分だけを抽出。 そして先程のシーサペントの鱗成分と結合させると、青透明の綺羅びやかに光る大剣が出来上がった。
カツコイイ。
思わず小さい“ッ”が大きくなる程カツコイイ。
自然武器シリーズ“海”の完成である。
こうなると鎧も海シリーズにしたい。
でも動きづらいのはなんとなくイヤなので、とりあえず胸当てと膝とすね当て、籠手なんかを製作する。
むむ! パンツに膝とすね当てだけだと下半身がダサい。
そこでシーサーペントの皮を鞣してなんちゃってズボンを作った。
靴は革靴とシーサーペントの皮を融合させ、甲当てを付けて作製。
まぁ、こんなもんだろう。
フィギュア作製の趣味が思わぬところで活かされた形である。
「ほぅ……」
木で作った枠に鎧一式と剣を飾り、一人悦に入る。
剣の鞘は素材の形を活かして鱗を張り付けてみた。
透明の青が屋根から漏れた光に反射してキラキラと輝いている。
「最強装備シリーズ“海”の完成である」
俺は自画自賛を怠らない。 自分を愛せないものに他人は愛せないからである。
ワクワクを抑えながら装備をしていく。
カシャン、パチン。
カシャン、パチン。
ズボンはきはき……
膝当て、すね当て、と靴を履いて……
「おおお……!!」
最強だ。 最強の剣士だ。 いかんせん俺には必要ないんだけれども、気分が大事なのだ。
「いくぞ! 世界平和のために……!!」
ビッ! っと大剣を真っ直ぐに振りかざすと目の前の壁に大穴が空いた。
いかんいかん。 盛り上がりすぎた。
反省をしながら壁を修繕、そして俺はいよいよ森へと乗り込んだ。