第十八話 怪光線の悪魔。
とりあえず、コイツの危険性は分かった。
躊躇しないで殺しに掛かることが出来る無敵系のヤツだ。 コイツはガチでヤバイ。 話が通用しない系part2だ。
俺はコイツに恨まれているのか? それとも影のアイツの方だろうか?
おそらくはアイツだと思うが、とにかく力ある限り俺を仕留める気マンマンである。
東の国の刺客なのか? 向こうに行ったらリアルにこんなんばかりなら、修羅の国も真っ青な展開になるだろう。
う~…ん、困った。 仕方ない。
「ミチコゥ!」
「ハイッス!」
「おまえは先におまえのボスのところに行って状況を伝えてくれ」
「タカシさんは?」
「俺はなんとかコイツと話をしてみる」
「了解ッス!」
「じゃあコイツ解除するから速攻で離れろよ!」
「ビュルルルルッ!」
言い終わる前にミチコは海の中を猛ダッシュで消えていった。
「さて……と……」
シュパァンッ!
俺は鋼鉄の塊を霧散させた。
中にはシクシクと泣いている悪魔がいた。
泣いてるッ!!
シクシクシクシクシクシクシクシク
横を向きながら鬼のような目で涙を流し続ける悪魔。 まるで俺のことなど目に入っていないようだ。
シクシクシクシクシクシクシクシク
いやいや、俺は油断しないぞ。 ケンカでも泣いてからパワーアップするヤツもいるからな。 これがコイツらのやり方かも知れない。
俺は海の大剣をザンッ! と地面に突き立てた。 チラッと悪魔はこっちを見たが、すぐにプイッと横を向いてまたシクシクと泣き出した。
謎!!
ヤ……ヤンデレなのか……? これは俺にも分からないッ!
ミノル達もミチコも普通にコミュニケーションは取れた。 あの影野郎だって、一応はギリギリ話は通じたのだ。
しかしコイツはどうだ。 いきなり殺意満点の攻撃の後には悪口攻撃、そして自爆覚悟の攻撃の後のシクシク祭りである。
……まてよ……
さてはコイツ、こういう芸風なのか……!? ツンデレならぬ、“ツンシク”かッ!!
これは……新しいッ!!
“ツンシク”とは、ツンツンしながら次にシクシクすることだとした時、コイツの“ツン”は殺意溢れたツッコミとも言える。 そしてコイツの全力とも言えるツッコミを受け止めることが出来るヤツは数少ないだろう……
“愛”という字は、“受”の真ん中に“心”が入る。 つまり、コイツは全力のツッコミを受け止めてくれる愛方(相方)を探していたのではないだろうか? そう、この俺のように……
それを俺は鋼鉄でぐるぐる巻きにしてしまった。 愛を求めて吐き出した想いを、俺は鋼鉄の心で跳ね返したのだ。
俺が悪い。
そもそも、コイツの攻撃はコイツなりのコミュニケーションの取り方かも知れない。 そうか、ならば……
ふわり。 俺は影の毛布のようになり、悪魔を抱き締めた。
ビクッ! と一瞬悪魔の体は震えたが、俺はグッと力を入れて更に強く、そして優しく抱いた。
シクシク……シクシク……
悪魔は泣き続ける。
そもそも争いとはお互いの価値観のぶつかり合いだ。 コイツにはコイツの価値観があり、それに従って行動しているだけなんだ。
なんだか、俺に害を加えるヤツにしても、そうじゃないヤツらも、この世界のヤツらはみんな純真なのかも知れない。
ただ怒りに飲まれても相手を破壊し尽くすだけだ。 ひょっとしたらそれも影の野郎の思惑かも知れない。
傍目には海にポッカリ開いた海底で倒れて泣く悪魔に、怪しい影がまとわりついているように見えるかも知れない。
でも俺は悪魔の心を包むように影の体で悪魔を被い尽くした。
「ムギャドゥルファスタッ!」
悪魔は突然叫び、やたら目や口から怪光線を出して暴れだした。
“ツン”の始まりだ。
赤い怪光線は俺の体に当たると霧散して宙に舞い、それは赤い花びらのように辺りを包み出した。
それは、儚くも怒りの色に染め上がった俺の心を現したような、そんな幻想的な風景を俺に見せ付けた。




