第十七話 ツルッパゲの悪魔。
作戦はこうだ。
①ミチコに海の鎧を着せて丸くさせる。
②次に胃壁上部の噴門が開いたら丸まったミチコを連れて通り抜ける。
③口を抜けて鼻に入る。
④鼻の奥をこちょこちょさせてくしゃみをさせる。
⑤大脱出!
以上だ。
「了解ッス!」
ミチコはタコ魔人らしく軟体なので、くるくると弾力性のあるボールみたいにくるまった。
鎧のせいでゴツゴツしているが、まぁ大丈夫だろう。 最初飲み込まれた時に、軟体であるミチコにあれだけダメージを与えた訳だから、準備は怠らないのだ。
防具一式をミチコに与えると、俺は影人間のようになった。 どこぞの魔王の影のようになっていて、なんか黒い。
しかも気が付かなかったが、胃壁も通り抜けることが出来るようである。 このまま一人で外に出ることも出来るが、ミチコとミノルの遺品を残してはいけない。
「あ! 来るぞ!」
「了解ッス!」
もにゅもにゅもにゅ、と胃壁上部の噴門が動いている。
ピュッ! ジョバーッ!!
噴門が開いて海水が流れ込んできた。
「おら!」
俺はミチコボールを噴門に向けて勢いよく投げ出す。
ビュン! ジャボン! と、豪速球となってミチコボールは海水の中に消えていった。
「さて行くか」
シュン! と俺は黒い風となってミチコを追う。
いた。
海水を抜けて食道に当たる前にミチコボールをキャッチ、そのままビュン、と喉を通り過ぎ、鼻の奥へと入っていった。
「次はこれだな」
鼻の奥にはのどちんこみたいな線毛が辺り一面にびっちり生えている。 正直グロい。 グロリアスだ。 こんなところは早く出るに限る。
俺はミチコボールを脇に抱えると、その線毛をビョンビョンと引っ張った。
ブルン! ビュオォォォ……
一瞬地面が震えた後に、風が鼻の奥へ通り抜けていく。
「来るぞ」
「「「グァバジャッ!!!」」」
イルカの大きなくしゃみの風が、バヒューンッ! と俺とミチコボールを空の彼方へ投げ飛ばした。
そうしてミチコボールを抱えながら一キロほど飛ばされている最中。
「グババババッ!」
上空には羽の生えたツルッパゲの悪魔のようなヤツが笑っていた。
「グレペビゴジョルバッ!!」
ソイツは突如叫ぶと、かざした手に巨大な炎をまといだした。
アレだ。 敵だ。
だから敵を倒すのに派手な魔法なんかいらないんだよ。
俺はキッ! っと空中で止まり、悪魔のようなソイツの周りの酸素を遮断した。
酸素を無くした炎はシュボッ! と悪魔の手から消え、苦悶の表情を浮かべながらソイツは海へ落ちていった。
「ミチコ」 「ハイッス!」 「離れてろ」 「了解ッス!」
ポイッとミチコボールを海へ投げ捨てると、俺は落ちていく悪魔周辺の海を消した。
ドゴッ
悪魔が海底の岩にぶつかる。 とりあえず、ピクピクしている。
あの悪魔に躊躇は無かった。 あきらかに俺たちを認識して殺りにきた。
多分、コイツは何かを知っているのだ。
俺や、影のことを。
俺は悪魔の元へ静かに降り立った。
「ミチコゥ」
「ここにいるッス! ひゃーすごいッスね~」
ミチコはキョロキョロしながら俺のそばに立った。
「コイツはなんだ?」
「あ~、たまに空を飛んでるヤツッスね~。 特に知り合いとかじゃ無いッス」
「ふぅん」
俺はピクピクしている悪魔の手足と羽を地面に同化させて無酸素を解除した。 そして体内に取り込んでいた海の大剣を引き抜くと、悪魔の前に切っ先を向けた。
「おまえ、誰だよ」
「ブルゴワシャル……ブビブルゴワ……」
悪魔語だ。
「ミチコゥ、わかるか?」
「う~ん……断片なら、多分イケるッス!」
「訳してくれ」
「了解ッス!」
悪魔のようなヤツはキリッとした顔で呪詛のような言葉を話し出した。 その隣でウンコ座りをしながらミチコはフンフンと聴いている。
「タカシさん、きっとコイツ、タカシさん消そうとしてますね!」
「そりゃ分かるよ。 いきなり悪意たっぷりだったもん」
「なんか、“殺す”とか“死ね”とかそんなんばっかッスよ!」
「はぁ~ん?」
バカァンッ!
俺とミチコが話している途中、悪魔は岩と同化させた右手ごと俺に攻撃を始めようとした。
「チッ!」
その瞬間、俺は舌打ちしながら悪魔の右手を塵に変えた。 それでもなお悪魔は同化させられた手足を岩ごともぎ取ろうとしている。
「趣味じゃねぇんだけどなァ……」
俺は悪魔の羽を鋼鉄に変えて手足を包み込んだ。 あっという間に悪魔の鋼鉄巻きの出来上がりだ。 それでも悪魔は諦めた表情を見せない。
ビッ!!と目から怪光線を出した瞬間に鋼鉄で遮ると、ボンッ! と自爆したようだ。 最早開いているところは口だけである。 鋼鉄のミイラのようになってしまった。
ミチコは「ビュルビュルビュルビュル!!」と通訳も忘れて切り立った海へ逃げ込んでいた。
ガチで根性あるなこの悪魔。
文字通り口だけになった悪魔は、口から謎の光線を出そうとした為、そこも鋼鉄で塞いでやった。
もうただの鋼鉄の塊だ。
う~ん……悪魔みたいなヤツがこれでやられるかどうかも分からないが、息をする人間タイプなら死んでしまう。 仕方なしに空気穴を空けると、真っ赤な怪光線が四散した後、静かになった。




