第十六話 イルカのお腹からさようなら作戦。
半月後。
「自分、タカシさんに会えて光栄ッス!」
「はいありがとう」
とりあえずモノになった。
リザードマンとの教育で俺の教え方が慣れたのか、タコ魔人の地頭がいいのか、半月ほどで日本語をほぼマスターした。
タコ魔人の本名はビュルビュル言ってわからなかったので“ミチコ”にした。 深い意味は無い。 ただ言葉をある程度理解した時に、まずは男か女かを確認したところ、女だと判明したから一応女らしい名前にしただけだ。
俺は二度同じ失敗は繰り返さないのだ。
とりあえず俺のことを好きになっちゃダメとは言ってある。 チートハーレムに興味は無い。 興味が無いどころか、タコ魔人である。 外見から別人種なのだ。
外見といえば、タコ魔人たちは男女が生殖器以外の身体的特徴は無く、性器も体内に出し入れ可能らしい。 なので一見どちらかは分からないが、発情期が来て始めて男女を意識するとのことだった。 不思議な世界だ。
ともあれ、俺はミチコに色々と聞いた。
この世界のこと。
西のボスと東のボスのこと。
あのイルカのこと。
ミチコの悩みのこと。
俺の体のこと。
ミチコによれば、西のボスや東のボスのことは分からないとのことだった。 しかし、ミチコの一族にもボスはいるらしく、ボスなら何か知っているかも知れないとのことだった。
そもそも、海に住む者達と陸に住む者達はあまり接点が無いらしい。
お互いに認識はしているが、住処が違うので生活にはあまり関係が無いみたいだ。 外国のニュースを聞いても「ほーん。」くらいにしか思わない時の感覚に似てるのかも知れない。
イルカ達は、最近あの辺りを縄張りにしている荒くれ者達で、しばらく前から海を荒らしているらしい。
いわゆる海賊みたいなヤツらだ。
ミチコから見ればの話なので、イルカ達にも何か理由があるのかも知れない。
改めてミチコから悩みを聴くと、ようはミチコはあの海域の警察みたいなもので、警備というか、イルカ達を偵察するのが仕事のようだ。 しかし、何人も犠牲を出している中で上も頼りにならないし、ほぼほぼ腐っていたところに海上を競歩する俺を発見、危ないぞーって叫ぼうとしたら食われたとのこと。 つまり、俺のせいだ。 ミチコは俺を助けてくれようとしていたようだ。 マジですまん。
というか、どこの世界も割を食うのは現場という風潮は変わらないようだ。 まさに事件は会議室では起きていないのである。 また、ミチコの組織はそれなりに統制が敷かれているようで、集落のようだったリザードマンたちとは違い、『国』として機能しているようにも思えた。
いずれにしてもまずは情報を得ていかなくてはいけない。 俺の目的は、まず影野郎を追い出すこと、その為にこの世界の仕組みを知ることが重要なのだ。
俺はミチコからの話を聞いた後に、この世界に来てからの経緯を話した。
無人島にいたこと。
リザードマンからジョバジョバと言われたこと。
謎の悪者に取り憑かれたこと。
コイツを引き剥がす方法を探していること。
結局最初に戻るワケだが、ミチコいわく「ボスに聞いて欲しいッス!」とのことだった。
あと、ミチコはもうここでの警備は嫌らしく、出来たらイルカを退治して欲しいとのこと。
う~ん。
いずれにしても巨大イルカから出なくてはいけない。
ミチコは「皆殺しにして欲しいッス!」と物騒なことを言い放ったが、俺としてはイルカ達の話も聴きたい。
イルカ達は超音波で会話をするらしく、ミチコ達に解読は出来ないらしい。 ミチコ達の精鋭部隊なら、退治は恐らく可能らしいが、上からの命令は偵察しかないのだとか。
うむ、何か、あるのだ。
まずはミチコのボスに会うのが一番だろう。 その前にこのイルカの腹から抜け出さなくてはならない。
ウンコホールを抜けるのが一番近道だが、それまでに消化酵素の海を潜らなくてはならない。 そしたら多分ミチコは消化されちゃう。 最初も胃酸の海で溶かされていたくらいだ。
ちなみに今のミチコは、俺が常にミチコの周りの胃酸成分を分解代謝し、無害化しているので悠々と胃酸の海を泳いでいる。
タコなだけに雑食悪食で、たまに落ちてくるイルカの食料を嬉々として貪っていた。 俺は別に食べなくても生きていけるし、どうしても溢れ出る怒りのせいで食欲はあまり無かった。
そうそう、外の出方だ。
腹を破れば早いが、イルカは下手したら死んじゃうだろう。 ミチコの上層部が始末しないワケだから、何かしら傷付けるのはマズイ可能性がある。 これは却下だ。
だとしたら今一度食道を逆流して、口に戻って出るしかない。 俺だけなら余裕だが、ミチコはあっという間に消化されちゃうだろう。 さすがに俺を助けてくれようとしてくれた人を、俺は見捨てる心を持っていない。
う~ん……
そうだ、アレでやってみるか。
思い付いた案をミチコに話すと、「自分に選択権は無いッス!」と元気良く返事をくれた。
まぁ懸念はあるけど、何事もやってみないと始まらない。 ミチコは女だが、部活の後輩みたいになっている。 タコ魔人に体の男女差はないとのことなので大丈夫だろう。 ちなみに声は思春期で声変わりする時の中学生みたいだ。
そんなワケで、俺とミチコは『イルカのお腹からさようなら作戦』を決行することとなった。




