第十五話 不思議な踊り。
「ビュルル……ルルル……」
なんとなく虫の息っぽい。
影の手を全身にかざしてサーチすると、あちこち骨が折れていたので回復させておいた。
また、俺は災害時に起こるクラッシュ症候群を知っていた。 災害でケガをした人が救出された後に突然死するアレだ。
原因は血栓によるものだとされている。 全身の打撲により、血液中に血栓が生まれ、脳の血管で詰まると言う。
イルカの食道を通り抜ける際の衝撃は、連続で交通事故に合うようなものだろう。
そう思い俺は血液の浄化も同時に行っていた。 伊達に医療系会社に勤務していた訳ではないのだ。
「ゴパァッ! カハッ……! カハッ……!」
青色の体液混じりの海水を吐き出した。 そういえばタコイカの血は青かったな。 頭はタコっぽいが、食べる気にはならない。 色も毒っぽいし。
まぁまずは貴重な情報源に違いはない。 俺だって今はさ迷う鎧状態だ。
「ビュルル……ビュルル……」
ふらふらと手を伸ばしながらビュルビュルと言葉を発している。 はいきた、異世界系言語だ。
ただまぁ、なんか「助けてくれてありがとう」感は伝わってくる。 油断させておいてブスリ系かも知れないが、この世界の住人はなんだか素直なヤツが多い気がしないでもない。 リザードマンも然り、悪者風の影もなんか嘘は言ってなかったぽい印象がある。 どちらにしても油断させておいてブスリンコは俺には通用しないからいいとして、厄介なのは精神作用系の攻撃に無力なことだ。 とりあえずコイツの話は聴いてみるか。
俺はとりあえず、秘技オウム返しを発動した。 秘技オウム返しとは、相手が言ったことをそのまま返す技である。 営業系の仕事もしていた俺に死角は無い。 外国人とのやりとりも過去にオウム返しと大げさなジェスチャーで何度も乗り越えてきた。 イケるはずだ!
「ピュルルルピュルルル」
出来るだけ声色とイントネーションを近く、裏声を駆使する。 周りに日本人がいれば奇異な目で見られそうだが、ここは異世界、心配はいらない。
「ピュル……?ピュルルル……?……ジョバジョバ……?」
来た“ジョバジョバ”!
なんだ? ジョバジョバは異世界共通用語なのか? 多分イケる。 ジョバジョバ=“神”だ。
「イエス、アイム、ジョバジョバ」
なぜか片言の英語風になってしまったが、タコ魔人には通じたようだ。 突如顔の蛸足と手足をふにゃふにゃと踊らせ始めた。
不思議な踊りだ。 一瞬何かの攻撃か!? と身構えてしまったが、MPが吸い取られている様子もない。 なんとなく、歓迎のあいさつぽい感じがする。
「ジョバジョバ……ピュルルル……」
タコ魔人は踊りを止めると立ち上がり、神妙に話始めた。
「ビュルルル……ビュルルル……」
うんうんと頷く俺。
「ピュルルル……ビュルルルルル……」
うんうん。 分からないけど、うんうん。 こういう時はまず、相手の話を聴くことが大事なのだ。
そうして小一時間ほど、ビュルルルルルピュルルルと話を聴くことが出来た。 いや、意味は分からないんだけど。
タコ魔人は話終わる頃には幾分かスッキリした顔になっていた。 いや、表情は分からないんだけど、なんとなくそう感じたんだ。 多分コイツも分からないけど色々抱えているんだろう。 俺はタコ魔人の肩に手を乗せて言った。
「イエス、アイム、ジョバジョバ」
タコ魔人は「ビョビョビョ……」と感涙にむせて泣いた。 男泣きである。 いや、コイツが男かどうか分からないんだけど。
とりあえず知能はあるっぽいし、俺はまたサリバン先生のごとく、このタコ魔人に日本語の教育から始めることにした。




