Step10 新しい型の選択肢を理解しましょう
「おはよう、お嬢さん。見ない顔だな、そちらは?」
「おはようございます、お邪魔してしまってすみません。こちら昨日から私の…お、オトモダチになったノクスです…」
団長は朗らかに笑って、私の肩の上のステラを見やる。関係性が形容しがたいが、まさかイレギュラー同盟なんですとのたまう訳にもいかず、猫のお友達がいるという年齢的にギリギリなメルヘン女になってしまった。だってペットって言うわけにもいかないじゃんね…バレたら国中の人が憤死するわ。
私の曖昧な笑みに団長はちょっと不思議そうな顔をした。関係ないけど猫に対してそちらって、結構お茶目なところがある人なんだなと思う。彼はニコニコ笑いながら名乗って、これからよろしく頼むぞとステラに話しかけている。お茶目というかただの猫派なのかもしれないな。
ステラは機嫌良さそうにしっぽを揺らすと、にゃーんと一言返事をするように鳴く。別にそれ自体は構わなかったのだが、いかんせん棒読みで演技力ゼロなのが問題だった。彼は爽やかで男性的な声をしていて、猫の時もそれで喋っている。その声でにゃーん、と棒読みだ。酷すぎる。鳴き真似下手くそすぎない?
これじゃ化け猫じゃんと内心冷や汗をかいたが、騎士団長は豪快に笑って変わった鳴き声なんだなと言うだけだった。この時ばかりは後光が指して見えたよ。後で鳴き声は全面的に禁止しようと固く誓った瞬間である。始まりから世界を見続けているのに、猫の鳴き声聞いたことないの?と聞きたくなるくらい酷かったのだ。ステラをジト目で睨む私を他所に、彼は不思議そうに首を傾げた。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「あ、そうでした。私は──」
ピロン♪
ここでお馴染み選択肢です。といっても、この選択肢はちょっと他と仕様が違うので、ここで詳しく説明しておこうと思う。
今ウィンドウに出ているのはたった一つ、『新しい武器を使いたい』これだけ。今日はこれを選び自分の得物を決定してから、後はひたすら毎日ミニゲームに参加していくと主人公の『体術』と『体力』のステータスが少しづつ上昇していく。
扱いとしてはソシャゲのショップ画面みたいなものだ。大抵キャラクターが常駐していて、ショップに来たプレイヤーに今日は何の用? とか聞いてくるアレである。明日以降ここを訪れ、アル騎士団長に声をかけると毎日『新しい武器を使いたい』『護身術を習いたい』『話をしに来た』の三つが選択肢として表示されるようになっている。
新しい武器云々は、最初に選んだ武器を別のものに変更する時のコマンドで、補正付き武器なんかの課金要素もあるところだった。この要素は一周目クリア後しか出てこないので見ることは無いだろうが。護身術ではお察しの通り、『体術』と『武力』アップのミニゲームがプレイ出来る。最後に『話をしに来た』では、恋愛面友好面どちらかの好感度を上げたい時の選択肢で、アル団長と交流していくことでストーリーを進めることも出来る。
アル団長攻略一直線なら明日以降ひたすら二番目と三番目の選択肢を反復横跳びすればいいのだが、私が目指すはお友達エンド。どちらの選択肢もほどほどにして、他の『体術』と『体力』を上げる方法の方も平等にこなしていかなくてはならない。攻略対象一人だけの友好度をひたすら上げたって毒にも薬にもならないのだ。私は最短でさっさと帰りたい。
とりあえず初日の今日は武器がなくては何も出来ないので、迷わず一つだけの選択肢に手を伸ばす。その腕を軽やかにつたって、ステラがウィンドウに飛びついた。
「あっ、ステラ!」
「ふむ、なんとも言えない感触だな…これがお前の言っていた選択肢か」
冷たく滑らかだが液状ではない…ゼリー状の水銀のようだ、と、彼はウィンドウを猫のミルクトレッド(毛布とかをふみふみするやつ)のようにこねくり回しながら独りごちる。私はウィンドウにしがみつく形でぶら下がるステラを抱き上げ肩に乗せると、びっくりするから急に飛び出さないでよ、と文句を言う。そこそこの重量があるはずの猫が渡ったにしては、私の腕にかかった力は妙に小さく軽やかだったが。ついでにさっきの文句も思い出し、できれば二度と人の前で鳴き真似しないで、二度見されちゃうと言うと、どちらの文句にも神妙な顔をして頷いていた。ほんとに分かってるんでしょうね…?
今度はステラが飛び出すこともなく、無事に押すことが出来た。ちょっと押してみたそうな顔をしていたので、次にもし触れそうだったら押してもらってもいいかもしれない。
「新しい武器が使いたくて」
「なるほど。ちなみにお嬢さん、従軍の経験とかは」
「ないです」
「剣を扱ったことは」
「ないです」
やべ、ちょっと不安になってきたぞ…ほんとにこんなド素人に武器渡してもらえるんだろうか。その辺ゲームだと気にしてなかったけど、実際になるとちょっと不自然な要素に思える。
「そうなると護身の術が欲しいって感じか? 護衛は付けてるだろうがこの国も犯罪が無いわけじゃないし、君自身の意識も必要だろう」
「あっ、そうです。いざと言う時自分で自分の身は守るくらいしたくて」
「わかった、そういうことなら、明日以降好きな時に来て鍛練に参加するといい。俺がいつも面倒を見ることは難しいが、ウチのにも訓練を補助するよう伝えておこう」
「すみません、お邪魔してしまって…お願いします」
「気にするな、騎士見習いに稽古をつけるのも俺たちの仕事だ。それにいい心構えだと思うぞ、もちろん護身術を使う場面はないに越したことはないが。…そうだ、それで初めて使う武器の話だったな。管轄は俺じゃないから、今からここへ行ってくれ」
団長の質問に便乗し、護身術を習いたいことにしておく。しかしマジでいい人だな、普通来たばっかで不審な人間にここまで親切にしてくれないぞ。まあ不審云々は多分護衛兼監視が今もひっそりついてるんだろうけど。
団長はなにやら紙に万年筆で書き込んで、私に手渡した。紙には簡易な地図と部署らしき名前が書かれていたので、私は彼に感謝を述べてこの場を後にしたのだった。彼にも今度なにかお礼を考えるべきだろうか。
事情があって次週は投稿できないかもしれません。ご了承ください。




