地下鉄と悪夢
気がつくと。俺は地下鉄の座席で眠り込んでいた。
俺はなぜ今、地下鉄に乗っているのだ?
見たことのない車両に中国語の文字。
L字型の座席
次の駅は台北車站と表示されている。
台北?
俺はなぜ台湾にいるのだ。
まもなく地下鉄は台北駅に停車し、ドアが開く。
俺は急いで下車し、エスカレーターを上り改札口を出る。
そこには広い広い地下街が広がっていた。
不安になり、地上に出てみることにして、出口を探す。
Z6と書かれた階段を上り、外に出ると、目の前に大きな道路とビル群があった。
右前方の巨大な建物が、どうやら台北駅らしい。
俺は台湾にきたことはないし、写真などでも見たことがない。
だからこれが夢か現実化はわからない。
ただ、夢にしては細部にわたってリアリテイがありすぎる。
特に匂い・・・・日本にはない独特の匂いだ。
さて、これからどうするべきか・・・。
ポケットの中を探ると、紙幣が何枚か入っていた。
なぜ入っているのかはわからないが助かった。
金がなければ、盗むしかないからだ。
自分が空腹であることに気づく。
とりあえず何か食べよう。
駅から離れた方向に歩いていくと、やがて細い路地に麺屋を見つけた。
中国語で話しかけられてもわからずにいると、店員が日本語のメニューを持ってきた。
炸醤麺を頼んで食ったが、うまい。
腹が減ってるのもあるんだろうが、日本人に合う味だ。
食いながら少し頭を整理する。
まずは、俺は誰で、なぜここにいるのだ。
思い出せ。
ダメだ。
頭の中に霧がかかったようではっきりと思い出せない。
なにか手掛かりになるものがないかとポケットの中をさらに探す。
紙幣に混じって、10桁の数字が書かれた小さなメモがあった。
どうやら電話番号のようだ。
この電話の主が誰かはわからないが、何かわかるかもしれない。
公衆電話を探し、メモの番号に電話した。
呼び出し音が数回続き、相手が電話に出る。
「あ、もしもし。、メモを見て電話したんだが。」
「ああ、おまえか。遅いぞ。とりあえず早く淡水に来い。」
「あ、おい。それはどういうことだ・・・。」
返事を待たずに電話は切れた。
仕方なく俺は、また台北駅へと戻った。
路線図で、淡水という駅を探す。
どうやら淡水というのは終着駅のようだ。
俺は再び地下鉄に乗り込む。
途中から窓の外が明るくなり、街並みが見えた。
これは地下鉄じゃなかったんだな・・・・。
眠気が襲ってきた。
目を覚ますと地下鉄は終点についていた。
すっかり寝過ごしたらしい。俺は駅名を確認する。
浅草・・・・。
いつの間にか銀座線に乗っていたらしい。
先ほどまで台北にいたはずなのだが・・・。
地下鉄を降りて地上に出た。
そこは確かに浅草だった。
浅草寺の方へと歩いていく。
さっきから警察官が俺の方を見ているのに気づいた。
2人・・・、いや3人か。
俺は少しずつ歩みを早める。
間違いない、俺をつけている。
俺は全力で走り出す。
「おい、待て。」
制止の声が背後から聞こえた。
なんだかわからないが止まるわけにはいかない。
俺は地下鉄の階段を駆け下り、改札を飛び越えてホームへと走った。
発車しようとしていた電車に飛び乗る。
さて、これからどうしようか。
きっとすでに連絡が回っているだろう。
どこかで乗り換えて警察をまかないと・・・・。
俺は床に座り込んだ。
目が覚めると、俺は再び台湾の電車の中にいた。
まただ・・・・。
俺はさっきまで浅草にいたはず。
警官に追われて、地下鉄に飛び乗った。
それなのにどうして再び台湾にいるのだ。
とりあえず電話の主に会おう。
そうすれば何かわかるかもしれない。
外は真っ暗で、景色など見えない。
いや、遠くの方で赤い灯りのようなものが見える。
もう、夜になったのか。
乗客は俺しかいないのだ。
それになぜか妙に空気が重い。
「もうすぐ目的地につきますよ。」
男が向かい側の席に座っていた。
若いといえば若い。
年寄りといえば年寄りの不思議な男だ。
服装も黒っぽい地味な着物のようなものをきている。
「お前は何か知っているのか。これはいったいなんなんだ。」
俺は問いにならない質問を男にぶつけた。
男はさほどおもしろくもないといったような表情を浮かべた。
「君が望んだんだよ。最後に台湾に行ってみたいって。」
「最後にってどういうことだ。」
男はいつの間にか俺の背後の座席に座っていた。
俺の耳元で囁く。
「君は浅草でね、人を刺して財布を奪った。その後警官に追われて地下鉄に逃げ込み、電車にはねられたんだよ。」
そうか、思い出した。俺は線路に逃げ込んだ。
「君にはこれから長い苦しみが待っている。だから最後に望みを叶えてあげるといったんだよ。思い出したかい。」
俺がホームに飛び降りた瞬間に最後にみた光景が、台湾旅行の広告だ。
「でも、どうして電車だったんだ。」
「よく駅名をみてごらん・・・・。」
男に言われて俺は行先表示をみた。
焦熱→大焦熱→無限
「そう、これは六道線。君が最初に途中下車したのは人間道だよ。あのままそこで暮せばよかったのにね。」
俺は男に懇願した。
「嫌だ。俺をもう一度台北に返してくれ。」
「悪いがそれはできないんだ。この電車は片道だからね。」
電車はゆっくりと終点の阿鼻地獄へと向かっていった。
この話は台湾のMRTが最初にあって、それからオチを考えました。
電車というのは目的地に必ず連れていってくれるのですが、異国の電車というのは妙に緊張感があります。
乗り間違えるととんでもないところにつれていかれたりとかね。




