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空戦活劇 スカイスライサーズ  作者: 楽土 毅
第1章 光と影の邂逅
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第9話 ガルダ乗りVSガルダ乗り

 ジャスミンは小銃を構える。

 ガルダ乗りVSガルダ乗りの戦いでは、基本的に飛び道具での戦いになる。


 狙うはもちろん、人ではなくガルダの方だ。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。ガルダが絶命すればガルダ乗りはなすすべなく地に叩きつけられるだけである。


「そっか。でも上手くいくかな。僕空戦で負けたことないんだよね」

「奇遇だな、私もだ」


 ジャスミンの小銃が火を噴いた。黒きガルダは闇に紛れるように急降下する。目を凝らしていないと見失いそうだ。低高度をするすると飛んでいく少年と黒きガルダをラッキーは追尾する。


 わざわざこちらに背を向ける構図を作るとは。裏がある気がしてならないが、とにかく見失うわけにはいかない。街路の中を這うように突き進む少年を、ジャスミンは睨むようなまなざしで、懸命に捉え続ける。


 地の利は圧倒的にこちらにある。

 細かい抜け道も、絶好の待ち伏せ場所も知っている。

 不利な点は、やはり色だ。ラッキーの白銀の体色はかっこよくて好きだが、この闇夜でもよく目立つ。対して黒の敵は、次の瞬間にでも闇に溶け消えてしまいそうだ。


「な!」


 狭い路地に入り込んだ瞬間である。

 突然目の前が煙に包まれた。


「煙玉か、しゃらくせぇな……」


 左右を建物で囲まれているため緊急回避もできず、ラッキーはその煙の中に突っ込んだ。トップスピードは時速二百キロを下らず、背にジャスミンを乗せている今ですら、時速百キロを越える速さで飛んでいるラッキーだ。煙に包まれた時間はほんの一瞬だったが、その一瞬が命取りだった。


「ちっ!」


 見失った。

 ジャスミンは視線を巡らす。前、右、左、上にいないことを一秒の半分で把握すると、直ちにジャスミンはラッキーを横転させる。


「っぶね!」


 一秒前にラッキーの体がいた位置を、後ろ下方から銃弾が過ぎていく。

 撃ったのは少年だった。


 先ほど煙に紛れた瞬間、一気に速度を落として、わざとジャスミンに追い抜かせていたのだ。そうすることでジャスミンの後ろをとった。 


 また、ガルダ乗りが一番気をつけるべきなのは、背後もそうだが、下もだ。敵の後ろ下方向を占位して、ガルダ目掛けて照準するのは、ガルダ乗りVSガルダ乗りの戦いでは常套手段だ。後ろ下方は、ガルダ、ガルダ乗り両方の死角となりやすい。


 なので今のジャスミンの判断は、ガルダ乗りとして、できてしかるべきものだが、それにしても早かった。少年もさすがに今の攻撃を避けられるとは思っていなかったようで、目を丸くしている。


 避けた銃弾は傍の建物に当たり、赤い塗料を撒き散らした。どうやら少年は、ペイント弾を使っているらしい。


――なめた真似を……。


 ジャスミンは歯噛みした。今すぐにでもぶん殴ってやりたい。彼女がもっとも嫌うのは、なめられることだ。容赦なく殺しにくるほうが、よほど好感がもてる。


「直で殴ってやらねぇと気がすまねぇ」


 ジャスミンはラッキーに街路をくねくねと曲がらせた。細かい旋回を繰り返し、速度は落ちていく。

しかし、その複雑な機動に、黒きガルダはしっかりとついてきていた。それどころか少しずつ距離を詰めてきている。


 いや、そうなるようにこちらが仕向けていた。


 ――この通りをまっすぐ行って右に曲がれば、確か、


 彼我の距離は十メートル弱。こんなところか。

 ジャスミンは小銃のベルトを肩にかけ、両手を空ける。予定通り右に曲がったところで、背の高い街灯が視界に映った。


「ふんぐ!」


 ジャスミンは素手で、自分の太ももくらいの太さがある街灯の支柱をつかむ。街灯のきしむ音がした。しかしそんなもの気にしている余裕はない。遠心力で自分の体のほうが引きちぎれてしまいそうだ。


 しかし、目論見は上手くいった。


 支柱をつかんでそれを軸にして一回転している間に、少年を乗せた黒きガルダはジャスミンを抜き去っていく。


 これで後ろをとれた。

 スピードも落ちていない。


 手の平は摩擦でずたずただし、肩は外れる寸前だったが、これでまた優位に立てる。ジャスミンは小銃を握りなおした。


「もらったあああ!」


 そのときである。

 ジャスミンのお腹がぐうう、と大きな音を立てた。


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