第55話 船内探査
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『アルデリック』船団から飛び立った20騎にも及ぶガルダ乗りがアムール号に到着したとき、船上は無人だった。
当チームを取り仕切る『アルデリック』第3番部隊副隊長のクサビは首をひねりながらもガルダを降下させ、甲板に降り立つ。
昨日までの抵抗ぶりを見ると、まだ戦力的にはある程度残っているはずだ。
船内に潜んでいる可能性が十分考えられるが、しかしここまで敵を招き入れるメリットがわからない。
自分たちの城に入れてしまうより、海上で迎え撃ったほうが彼ら自身、自由に戦えるはずだ。
我らが『アルデリック』船団長の命は、確実に、一人残らず、鳥竜騎士団員を殺害することだ。
このまま火でも放って引き返したいところだが、この言い知れぬ違和感を抱えたまま本船に戻って、一体どう報告したものか。曖昧な報告を許すような御方ではない。船内の調査は必須だろう。
「トマル、マーカイン、ジヘッド。私について来い。その他は上空で待機。我々が10分経っても戻らなければ、我々ごと爆撃しろ」
クサビの指示に、3番隊隊員は応じた。部下3人を連れ、船内へと浸入を試みる。
クサビを先頭にし、互いに背を預けるような形で船内を進んでいく。人の気配はなく、もぬけの殻だ。しかし、船内を見た限りではほんの少し前まで誰かがいた痕跡がそこここに点在している。
当たり前だ。この船は明らかに誰かの操縦によって、この『コンコルダの巣』へと進路を変え、つい先ほど急速にそのスピードを緩めた。誰かがこの船を動かしていたのだ。
必ず誰かがいる。地の利は明らかに向こうにある。
慎重に慎重を期す。罠としか思えない状況に自ら飛び込んでいるのは百も承知。クサビは元々クーベルグの聖騎士だった。しかし上官と折り合いが悪く、本作戦では海賊船へと配置された。
本来忌むべき海賊と手を組まされ、はらわたが煮えくり返る思いだったが、引いては祖国のためだと自分に言い聞かせ、この任務に従事している。
クサビは一つの扉を定め、そっと耳を充てて神経を集中させた。
人の気配はない。しかしそのことをこの目で確かめる必要がある。もし敵が潜んでいて、後から背後を取られては目も当てられない。
クサビは部下3名に目配せした。年長者のトマルが扉に手をかける。横でクサビが、手でカウントダウンする。
5秒のカウントと共に、扉が開け放たれ、クサビとトマルが入室。
中は食料庫のようだった。幾度の戦闘を経たため散らかってはいるが、肉・魚・野菜・穀物とそれなりに充実しているようだ。一定量、仕込が済んでいるものもある。手入れも行き届いており、優秀な料理番がいたのであろうことが読み取れる光景だった。
自分たちの船にはまともに料理ができるものなどいない。味や栄養は二の次で、その日体をちゃんと動かせるだけのエネルギーを摂取するのみだ。うらやましい限りである。
――次だ。
クサビは声には出さずに部下に指示を出す。もう一度だけ食料庫を見渡した後、彼らはその場を後にした。