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空戦活劇 スカイスライサーズ  作者: 楽土 毅
第3章 赤き夜
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第52話 キースの作戦

   *


 アムール号に対する追っ手の数は凄まじいものだった。後方を見やれば常に船の姿が見えるし、そこから時折銃を手にしたガルダ乗りが飛んでくる。それを鳥竜騎士団のベテラン勢が迎撃するのだが、あまりにも人数が少なすぎた。


ローテーションで迎撃する役を変わっていても、ほとんど休憩する暇がない。団長であるキースまでもがその迎撃役に加わるほどだ。


「出ました! 今度は二騎です!」


 出撃塔の一番上の階には360度を見渡せる監視室がある。監視員や出撃待ちのガルダ乗りたちはそこに詰めていた。敵船を望遠鏡で監視していた船乗りが敵騎の姿が見えたことを大声で報告すると、一人の男が立ち上がる。


「うし、行くぞダリア」


「うへぇ……もう疲れたぁ」


「若ぇのがだらしねぇこと言ってんじゃねぇよ」


 ベテランのミルが、文句たれる青年ダリアの背を押して促す。まもなく二人はカタパルトに待機していたパートナーのガルダに乗り込み、出撃する。


 ダリアの言っていることも、指揮をとっているキースにはわかる。オーバーワーク気味なのは承知の上だ。


 しかし向かってくるのだから仕方ない。また、目的のサンミニストまではあと一日ほどで着くが、このまま追っ手を引き付けたまま突っ込むわけにもいかないだろう。


 それまでに何か手を打つ必要がある。しかしそれには手駒が足りない。キースはあごに手を当て頭をひねる。


 そこへ、「よお」


 ジャスミンが顔を出した。傍らにはティータとノックがいる。


「え、もう大丈夫なの?」


「平気平気、それより、私も手伝うぞ」


 キースの問いに対してジャスミンが何の気なしに言うが、彼女が目覚めたのは昨夜のことだ。怪我もけして軽いものではない。こんな状態で彼女を戦場に出すのは気がひけた。


「でも、怪我が」


「確かに走ったり飛んだりは無理だけど、ガルダに乗って動く分には問題ねぇよ。それに」ジャスミンは監視室内を見渡し、その疲弊ぶりを確認する。「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ。多少の無理は仕方ない」


「そうか、ありがとう。助かるよ」


 キースは微笑みかける。怪我の具合は気になるが、ジャスミンが動けるとなると作戦の幅は大きく広がる。


「ミル班長が二騎を撃破しました!」


 監視員が報告する。キースは頷いて返した。


「じゃあ、そろそろこちらから打って出ることにしようか」



 ジャスミンを含む鳥竜騎士団員全員が集められた。ジャスミン含む、各班の班長を最前列に、キースと打ち合わせ机を取り囲んでいる。


「今我々を追ってきているのは『アルデリック』海賊団の一部と、『レオング』『キルコ』海賊団の残兵だ」


 キースは海図に線を引いて我々の航路を描き、駒を使って、アムール号の現在位置と敵方の3隻の船の位置関係を示した。


「残念ながら『アルデリック』陣営はまだまだ余力がありそうだね。『キルコ』陣営については、副船団長であるコルクハントが既に落ちていて、単体ではそれほど脅威ではない。青いバンダナを巻いた男、覚えてないかい?」


「覚えてるよ、かなり厄介な相手だったからな」


 ジャスミンは言葉とは裏腹にニヤついていた。強い男は好きだ。久しぶりに胸躍る相手であった。


「ジャスミンちゃんが彼を討っておいてくれたおかげで、何とかさばけているよ。もっとも、コルクハントを除く『キルコ』主力部隊はここにはいない。船団長のキルコを含め、恐らくサンミニストのほうに待機しているはずだ」


「あの実力で(かしら)じゃないのか。それは楽しみだ」


 ジャスミンの回答を横で聞いていたティータとノックはやや引いていた。班長として頼もしい限りだが、死にかけておいてなお、この好戦的な態度とは常軌を逸している。


「こっちの『レオング』海賊団については、船団長のレオングも既に落ち、もはや虫の息だ。その気になればいつでも叩ける状態だね」


 恐らく、アムール号奇襲隊の指揮を取っていたのはレオングだ。『レオング』海賊団の本隊全てが来ているわけではないだろうが、船団長レオング、副船団長マルスが落ちた今、五大船団の一角は既に崩れたと言っていい。


「へえ、やったのはガノンか?」


「彼か、ユールのいずれかなのは間違いない。『レオング』がまだ健在だったなら、我々は既に海の藻屑だったろうね」


 ガノン・ユールの両名は未だ発見できていない。王都ウォルガナに帰還すれば武勲章ものの働きであるというのに。


「なら、あいつら二人の働きを無駄にするわけにはいかねぇな」


 ジャスミンは海図の上に置かれた一際大きい駒――『アルデリック』海賊団を示す駒を拳で叩き潰した。破片の一部がモンコ班長の眉間に直撃する。


「で、コイツを潰す作戦は?」


 ジャスミンの質問に対し、キースはコクリと頷き、口を開く。


「まずジーニール班とジャスミン班と、このアムール号を動かすのに必要最低限の船乗りを残し、他の団員は離船。小船に乗り換え、サンミニストを目指す。


 その後、ジーニールたちはアムール号を『コンコルダの巣』に向けて舵を切り、海賊たちを誘導してくれ。十分に敵を引き連れたら、アムール号を乗り捨て、ガルダでこの無人島『グリニッド島』を目指してくれ」


 『コンコルダの巣』の海域では、小船なんてあっという間にひっくり返される。離船するなら、ガルダに乗る以外選択肢はないだろう。


「それじゃ足りねぇよ」


 異議を唱えたのは、ジャスミンだ。キース含む全員の視線が彼女に集まる。


「この船を放棄する覚悟までしたんだろ? 存分に活かしてやらないと報われねぇな」


「何かいい策が?」


 キースの質問に、ジャスミンは肩をすくめた。


「お前の頭にも浮かんでるだろうが、あえて私から言ってやるよ。ジーニール班が船乗りを連れて『グリニッド島』を目指すまではいい。だが私は船の中で隠れて待つ。船の中での地の利は圧倒的にこっちにある。ある程度、この船に敵を引き入れた段階で、火を放つ。余裕がありゃ、敵船も叩いた上で、私も『グリニッド島』を目指す。どうだ?」


 今度は視線がキースのもとに集まった。彼は苦い顔をする。


「確かに敵の足止め、戦力を削るという観点では有効な作戦だ。ジーニールたちに追っ手がかかるリスクも減らせるだろう」


「だろ?」


「だがそれはあまりにも君が危険だ。ガノン君がいればまだしも……」


 キースは言い淀む。


 団長として、少しでも犠牲が少ない道を選択するよう努めてきたが、誰かが犠牲となることを前提とした作戦は、すぐには踏ん切りがつかない。


「言っとくが、私が盾になろうなんて気持ちはさらさらねぇぞ? アイツラに一泡ふかせてやりたい、そのために最も有効な作戦を言ったまでだ」


「あの!」


 背後から口を挟んだのは、ティータだった。彼女は拳をぎゅっと握り締め、キースとジャスミンそれぞれを見ながら口を開く。


「ジャスミン班は班長とガノンさんだけじゃありません! 私だっているんです! 私も一緒に残ります!」


「自分も同意見でござりますでそうろう!」


 ティータに続き、ノックまでもそう意思表明した。ジャスミンは笑い声を上げ、キースに向き直る。


「だそうだ。まだ何か言いたいことはあるかよ?」


 キースは思案した後、ふっと諦めたように息を吐いた。


「頭が下がるよ。君たちの無事を祈っている」


「アホ。そんな暇あったら、てめぇの役割の心配でもしてろ」


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