第48話 裏切りと微かな希望
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一生の不覚だった。団長のキースになんと詫びればいいのかわからない。ヴィルキス号の取りまとめを任されていた副団長のルドルフ・ハイマントは、たった今敵の手中にあった。
エルデミアラ島はウォルガナとクーベルグの間――少しばかりクーベルグ側に近い位置にあった。しかし、一応はウォルガナの領地となっている。ウォルガナの大陸からは遠い上に特に資源の類もないので、実際の利用価値はほとんどなく、長年野放しにされている島である。
しかしそこが、レオングを初めとした海賊連合のアジトだったのだ。しかもバックにはクーベルグの影がある。今回の一件にも深く関わっているようだ。
海賊たちの反抗に便乗して、ウォルガナを叩く。どうやらそれがクーベルグの狙いのようだ。彼らは戦争でも始めるつもりなのだろうか。
そしてそんな一大事に、敵に拘束されてしまっている自分たちの腑抜けっぷりときたら。
ルドルフは歯噛みする。恐らくキースならこんなヘマはしなかっただろう。自分よりも十は下だが、彼のほうがよほどしっかりしている。
「よお副団長殿、昨日はよく眠れたか?」
「……キルコ」
今回相手にしている海賊連合の一角を担うキルコ海賊団の船団長、キルコが姿を見せた。かなりのキレ者だと聞くその男は、眼鏡の隙間からルドルフのことを見ている。
そしてその隣には、鳥竜騎士団員である少女――いや、元団員と言ったほうがいいだろうか――サンがいた。
「サン……よく私の前に姿を現せましたね」
ルドルフはサンを睨みつける。ヴィルキス号を破滅に導いた裏切り者だ。彼女がヴィルキス号に火を放ち、そこを海賊やクーベルグ側に襲わせ、ルドルフたちを一網打尽にさせた。
ーー図らずも、キースたちが受けた奇襲と同じ類の攻撃を受け、ルドルフたちは敗北していた。
サンは一言も喋らず、ルドルフを見据えている。元々口数の少ない奴だったが、ルドルフは彼女を信頼していた。まだ彼女は十五だ。いずれはキースやユールに匹敵するガルダ乗りになるとも期待していた。なのに。
その光景を見ていたキルコが突然腹を抱えて笑い始める。
「信頼していた部下に裏切られた奴ほど滑稽なものもないな! いい、実にいい!」
「せめて理由を聞かせてくれませんか?」
「かはは、すがる! すがるねぇ!」
「お前は黙っていろ!」
笑い続けるキルコにルドルフが怒鳴り付ける。ルドルフは憎いという以上に、ただ解せなかった。サンが自分たちを裏切るに足る理由が思いつかない。ルドルフが真摯に見つめていると、サンがようやく口を開く。
「これは復讐よ、あなたたちは私から大切なものを奪った」
「大切なもの?」
サンはそれが何かは答えてくれなかった。しかし、それが彼女にとってかけがえのないものであったであろうことは理解できた。
「ルドルフよ、言っておくが私どもが彼女をそそのかしたわけではないぞ? 自ら進んで我々に加わったのだ。そしてその分、彼女の意思は固い」
キルコは何がそんなに愉快なのか、笑みを浮かべたまま話している。
「まあ、今更彼女一人心変わりさせられたところで何も変わらんがな。お前に書かせた手紙を見て、キース団長一行はこちらへ進路を変えたはずだ。そこにはレオングたちを初めとした強力なガルダ乗りを大量に配置してある。いくらキースがいたところで、あそこを突破するのは不可能だろう。今のところまだ連絡待ちだが、すでにレオングたちに拘束されているか、はたまた海の藻屑となっているか。いずれにせよ、奴らの助けは期待できんぞ?」
確かにキルコに言われ、ルドルフはキースに向けた手紙を書いた。
内容は単純だ。『兼ねてから捜査対象としていた海賊連合のアジトを見つけた。場所はエルデミアラ。だがそこに行く前にまずはサンミニストで落ち合おう』。全てキルコから指示された内容である。
それをルドルフの筆跡で、キルコに言われるままに素直に書いたのは、部下を人質にとられていたのもあるが、それ以上に、キースたちならこの状況を何とかしてくれるのではないかと考えた結果だった。
いずれにせよこのままでは自分たちは縛り首だし、ウォルガナ侵攻を止める術もない。となればキースにここに向かわせるのが、この状況を打開する最善策に思えた。
しかし計算高いキルコのことだ。ルドルフのそんな思考はお見通しだろうし、相応の対策は施していることだろう。キースがそれを上回る何かを起こしてくれない限り、やはり望みは薄い。
例えば、キースやユールに匹敵するような、強力なガルダ乗りを仲間にできた、とか。
例えばそれが、兼ねてからキースが目をつけていた「スライサーズ」の二人である、とか。




