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空戦活劇 スカイスライサーズ  作者: 楽土 毅
第3章 赤き夜
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第44話 欠片

 クイナたちの遺体はアジトの裏に葬った。

 作業には丸一日かかった。すでに雨は上がり、再び太陽が沈もうとしているところだ。


「悪ぃな。今の私らにはこれが精一杯だ」


 手作りの不恰好な十字架にジャスミンは苦笑いを浮かべている。その隣でガノンも困ったように笑うしかなかった。


「なんか、まだ実感わきませんね」

「……そうだな」


 今にもアジトからみんなの笑い声が聞こえてきそうだ。本当にただ悪い夢を見ていただけではないのかと疑ってしまう。


 しかし、そうではない。ウォルターのうちの半数近い人数の命が奪われ、その仕返しにガノンたちはそれ以上の命を奪った。その事実はこれから一生背負って行かなくてはならない。


「さて」


 ジャスミンは立ち上がり、こちらへ振り返る。「これからどうするよ。いっそのこと海にでも出るか?」


 恐らくジャスミンは冗談だったのかもしれないが、ガノンにはその提案が魅力的に思えた。


「いいんじゃないですか。ガルダ乗りは船乗りから重宝されるって聞きますし、頼めば誰か雇ってくれるかも」

「雇われかー、まあ最初はしゃあねぇか。私ら海のことなんもわかんねぇもんな」

「そうと決まれば、港まで行ってみましょう」

「ん」


 ガノンは両手を合わせ瞑目し、クイナたちに最後のお別れをする。一人ひとりに言葉を授けると、やがて顔を上げた。


 ジャスミンはとっくに終えていたのだろう。ガノンのほうを見て、「じゃあ行くか」と言った。


「はい」

「じゃあラッキーたち呼ぼう。三角笛はっと……ん?」


 ポケットをまさぐっていたジャスミンが、不思議そうな顔で何かを取り出した。

 それは白いハンカチだ。確か裁縫が得意だったルナの手作りである。それの何が不思議なのかと見守っていると、そのハンカチはあるものを(つつ)んでいたのだった。


 広げると、中には一枚のビスケットがあった。いろんな部分が欠けていて、原型を保っていないが、ガノンにはそれが何かすぐにわかった。


 約一週間前、クイナがジャスミンに渡したあのビスケットだ。ジャスミンはあれを食べずにとってあったのだ。


「はは、すっかり忘れてたぜ。もうぼろぼろだな」


 ジャスミンは照れくさそうに笑う。「あとで食べようと思ってそのままにしてたんだ」


 ガノンにはそれが嘘であることがわかった。きっとあのビスケットをわけたのが他の誰かであれば、ジャスミンはすぐに食べた。たとえその場ではなくとも、その日のうちには食べておいただろう。


 ただ、それをくれたのがクイナだったから、ジャスミンはきっとすぐには口がつけられなかったのだ。


「まあちょうどいいや。最後に供えてこ。アイツ確かビスケット好きだったし」


 そういってジャスミンはハンカチごと十字架の前にビスケットを置こうとした。

ガノンはそれを止めた。


 驚いた顔で振り返るジャスミンに向け、ガノンは言った。


「それは、ジャスミン姉さんが食べるべきだと思います」


 ただのビスケットではない。クイナの優しさが込められたビスケットだ。それを食べられるのは、これがもう最後だ。


 今そのチャンスをフイにしたら、ジャスミンはきっと後悔する気がする。


「……そうだな」


 ジャスミンは立ち上がり、ビスケットの欠片の一つをそっと口へ運ぶ。

 ガノンはそのとき初めて、ジャスミンの涙を見た。これ以後も二度と見ることのない彼女の涙を。


「わり、ガノン、ちょっと先行ってろ。私、やること思い出した」


 そのことを悟られたくなかったのか、ジャスミンはそっと顔を背けてそんなことを言った。涙に震える声は痛々しく、儚く、そして愛しかった。


「わかりました。ゆっくりでいいですから」


 ガノンはそう言い残し、少し離れたところでこっそりジャスミンを見守った。


 およそ一時間。

 ジャスミンは十字架の前で静かに涙を流し続けた。


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