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空戦活劇 スカイスライサーズ  作者: 楽土 毅
第3章 赤き夜
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第43話 存在意義

 ジャスミンとガノン、ラッキー、ナナ、スイミー。あとは無数の死体があるだけの邸宅は嘘みたいに静かだった。


 クイナの仇はうったはずなのに、なにも晴れ晴れとしない。

 残るのは虚無感と脱力感と、そして深い悲しみ。


「私さ、初めてクイナに会ったとき、こんなことを聞かれたんだ」


 壁によりかかるようにし、ジャスミンは語り始める。


「この理不尽な世界で、何も失わずに生きていくにはたった二つしか方法はない。一つは、この世界で誰よりも強くなること。そうすればどんな奴からも大切なものを守れるから。そして二つ目」


 ジャスミンは何かを懐かしむような表情になる。


「大切なものなんて最初から持たない。持ってなければ失うことはないからな。それでクイナは、お前はどっちを選ぶんだって聞いてきた。もし前者を選ぶなら、俺と一緒にこいって」


 それがジャスミンに対するウォルターへのお誘いだったのだろう。そしてジャスミンは前者を選び、ウォルターに入った。


「あのときの選択は間違ってなかったって、ずっと思ってた。だって、あんなに楽しかったんだ。それまでの生活がうそみてぇに。でも」


 ジャスミンは何かを我慢するように目を細める。


「今、私はこの有様だ。たった今大事なものをたくさん失った。苦しいなんてもんじゃねぇ。もう死んだほうがマシなんじゃねぇかってくらいに辛いよ」


 ジャスミンはゆっくりとこちらを振り返る。色の無い瞳でガノンのことを見据える。


「私はやっぱり、後者を選ぶべきだったのか?」


 ガノンは言葉を捜す。ジャスミンの気持ちは痛いほどにわかる。自分だって今死にたいくらいに苦しい。

 でも、死ねない。まだ自分にはやるべきことがある。


「僕にはわかりません。確かに後者を選んでいれば、こんな思いはしなくてすんだのかもしれまん。でも、それだと」


 ガノンは三歩進んでジャスミンの間近に立つと、彼女の血に(まみ)れた両手を強く握った。サーヤたちが拒んだこの穢れた手を、しかしガノンだけはしっかりと握ることができた。顔を上げたジャスミンの目を、ガノンは正面からまっすぐに見つめる。



「僕は姉さんに出会えなかった。僕にとってそれを超える不幸はありません」



 ジャスミンと初めて出会ったときのことを思い出す。


『お前、一人なのか?』


 その問いに頷くと、ジャスミンはあの明るい笑顔で言ったのだ。強引で、その実とても温かい言葉を。


『じゃあ、今日から私が家族だ。私のことは姉さんて呼べ!』


 もし人間一人ひとりに生まれてくる理由があるとするのなら。

 自分はきっと、ジャスミンと出会うために生まれてきたのだ。


 たとえこの先何があっても、このような悲劇を何度繰り返しても、それだけは絶対に否定したくない。そんなことはさせない。


「でもその選択がジャスミン姉さんにとって辛かったのなら、もうどちらも選ばなくていい。僕が誰よりも強くなって姉さんを守る。そしていつまでも姉さんの傍にいる」


 その言葉を耳にして、ジャスミンは静かに俯き、そして、ガノンの手をぎゅっと握り返した。


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