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空戦活劇 スカイスライサーズ  作者: 楽土 毅
第3章 赤き夜
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第39話 まっとうに生きるなら

 ある夜のことだった。本当になんてことない、これまでに幾度となく通過してきた夜のうちの一つ――そのはずだった。


 その日ガノンはジャスミンとともにガルダに乗って遠出して、新たなアジトの候補地を探していた。

 実は今ウォルターでは、みんなでこのモルドーから抜け出そうと計画中なのである。どこかいい田舎町でも見つけて、そこでまっとうに生きようという計画だ。


 その実行のために盗みで資金を集めているのはどうかとも思われるが、もうみんな犯罪意識などとっくの昔に薄れてしまっている。むしろ新たな目標ができて、誰もが燃えていた。そんなときであった。


「やっぱ今んとこの第一候補はカサブラスタかねぇ。でけぇ捨て屋敷があったし、近くに住んでるみんなも良い人たちぽかったし」


 ゆっくりとした速度で隣を飛んでいるジャスミンが言った。


「僕たちにはもったいないくらいかも」

「はは、そうだな!」


 この計画の実行に目途が立ってからというもの、ジャスミンはいつも楽しそうだ。今日いろんな街を散策しているときだって、とても楽しそうだった。そんな彼女を見ていると、胸が苦しくて死にそうだった。恋心も度を過ぎればただの病気である。


「私、考えてたんだけどよ」

「はい?」


 少し照れくさそうな表情でジャスミンは話を切り出す。


「やっぱりまっとうに生きるってなったら、私らも働かなくちゃいけないわけだろ。そんで私らに何ができるかって考えてさ、その結果一つ思いついたわけよ」


 少し間が空く。ジャスミンはさらに照れくさそうに目を泳がしている。


「こういう風にガルダに乗って、場所から場所へ物を届ける仕事ってどうかなって思うんだよな。ラッキーやナナなら結構な大荷物を運べるだろ? そういう仕事、なんつーか、すげぇいいと思うんだよ」


 照れ隠しのためか、ジャスミンは自分の髪を意味もなくガシガシと掻いている。彼女のこんな姿は珍しい。そしてとてもかわいらしかった。


「ああ、『運び手』のことですか?」


 しかし、ガノンのこの返答がジャスミンをさらに辱めることになる。


「え?」

「だから、運び手のことでしょう? 物を人から人へ届ける仕事」

「え、なに? そういう仕事ってもうあんの?」

「ありますよ。僕は頼んだことないですけど」


 代金と引き換えに、物を頼まれた場所まで配達する人のことを『運び手』というのだが、どうやらジャスミンはこういう職業がすでに存在していることを知らなかったらしい。


「んだよあんのかよもう私これ世紀の大発見じゃねっていうくらいのひらめきだと思ったのによぉ。ないわー、ほんとないわー。もうなんかやる気なくした!」

「あ、でも」


 うなだれるジャスミンに向けて、ガノンは慌てて付け加える。


「今はまだガルダ乗りってそんなにいなし、ガルダ乗りの運び手っていうのはまだいないかも」

「んだよマジかよそれ先に言えよ、ようし頑張ろう私!」


 ジャスミンはあっさり元気を取り戻し、握り拳を作る。「お前も一緒にやってくれるか?」


 答えは考えるまでもなかった。「もちろんです」ガノンは頷きながら答えた。


 そのときぽつりと水滴が頭に落ちてきたのを感じた。ジャスミンも同様だったのか、手の平を空に向け、雨が降ってきたのを確認していた。


「もうアジトまで近くだし、行っちまおう」

「はい!」


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