第32話 突破と犠牲
同刻。
ジャスミンは「右の船」の甲板の上で大の字で寝転がっていた。荒い息を繰り返す彼女の顔を、ラッキーが心配そうに覗き込んでいる。
「はぁ、はぁ、さすがに疲れたぜ」
「キュイ」
精根尽き果てたと言わんばかりのジャスミンに対し、ラッキーはけろっとした表情で鳴いた。ジャスミンは呆れ笑いを浮かべる。
「お前はまだ平気そうだな。大したもんだ」
そう呟くジャスミンの周囲には「右の船」にいた戦闘員、恐らく海賊だろう男たちが血まれで倒れている。
その全てがすでに意識を失っていた。当分は満足に戦えはしないだろう。もちろん手を下したのはジャスミンだ。青バンダナを倒した後、気力を振り絞って、残りの敵を全滅させた。体力的にぎりぎりだった。
「ガノンとユールは、まあ無事だろうな……あいつら私より強ぇし」
しいて言うなら心配なのはキースのところ、つまりアムール号だ。あそこには敵の攻撃も集中するだろうし、何かを守りながら戦うというのは本当に神経を使う。ジャスミンは大の苦手だ。
「とりあえず、ガノンたちと合流しねぇと……あれ?」
ジャスミンは立ち上がろうとするが、体が言うことをきかない。足にも腕にも力が入らない。不審に思って自分の体を見てみると、腹部からどくどくと血が流れていた。
「あっりゃ、やべぇなこれ……痛み全然感じねぇし」
視界がぼやける。頭がくらくらする。自分が甲板に再び倒れ込んだことを自覚できないほどに意識が朦朧としていた。これはまずいかも、と思ったのが最後だった。
***
ジャスミン・アルフレッド、ガノン・ウォーレン、ユール・サーナイトの三人の活躍により、アムール号は何とか進路を確保することに成功。またアムール号自体は、キースたちによって死守され、何とか敵の包囲網を突破した。
その後騎士団員により周囲の捜索が行われ、うちジャスミン班のティータ・セシリアが、敵船の甲板にジャスミン・アルフレッドが血を流して倒れているのを発見する。彼女はただちに処置されて一命を取り留めたが、未だ意識は戻っておらず、予断を許さない状況である。
一方、必死の捜索もむなしく、ガノン・ウォーレンとユール・サーナイトの姿は発見できなかった。
まだ他にも敵戦力が残っていることと、時間がもう残されていないことを鑑み、最終的にはキース団長の判断により、捜索は打ち切られた。
死者三名、行方不明者五名、重軽傷者三十六名。
アムール号、満身創痍での絶望的な戦いはまだ始まったばかりだ。




