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空戦活劇 スカイスライサーズ  作者: 楽土 毅
第2章 犇めく海
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第31話 重み

 コーデリアは撃たれたほうの右翼を上手く動かせていなかった。瞬く間にバランスを崩し、自由落下し始める。当然ユールにはなす術がない。


「すまない、コーちゃん、私のせいで……ごめん」


 ユールはコーデリアの体に密着しつつ、涙を目に浮かべながらひたすらに謝った。

 コーデリアとは十年以上ともに戦ってきた。まだ年端もいかぬ少女だったユールを一端(いっぱし)の戦士にしたのはコーデリアだと言っても過言ではない。


 そのコーデリアを守れなかった。

 ユールは悔しくて悔しくて仕方がない。


「誰か」


 海に向かって真っ逆さまに落ちながら、ユールは心で唱える。


「助けて」


 ふっと、キースの顔が浮かんだ数瞬後、視界の端を真紅の巨体が過ぎった。


「ユールさん!」


 それは上から来た。落下していくユールたちと同速度で急降下し、二体のガルダがコーデリアを挟む形になる。


 ナナとスイミーだ。

 そしてこの二体を従えるガルダ乗りと言えば。


「……ガノン?」


「大丈夫ですか、怪我は?」


 傷だらけのガノンが心配そうな表情で顔を覗き込んでくる。驚くべきことに、ガノンは「左の船」を早々に片付けたのち、こちらに助太刀に来てくれたらしい。


「私は平気だ。でも、コーちゃんが、コーちゃんが撃たれた。右の羽の付け根を。そのせいで上手く飛べないらしくて」


「わかりました」


 ガノンはナナとスイミーに指示を出した。ナナはコーデリアの下側に回りこみ、その巨体を生かしてコーデリアの落下を下から受け止める。スイミーは上から足でコーデリアの体を挟み、落下傘のように翼を目いっぱい広げて落下速度を緩めていく。


 海面が近づいてくる。このまま海に叩きつけられてしまえば恐らく命はないだろう。仮に一命を取り留めても、この暗い海の上で生還を果たすのは難しいかもしれない。しかしユールは怖いと思わなかった。


「間に合え……!」


 あるのは、ただその一念のみだ。


 間一髪だった。

 黒々とした海面に大きな同心円状の波紋を広げ、コーデリアの体は静止した。ナナとスイミー、そしてガノンのおかげだ。ユールとガノンのほっと息をつく動作が重なった。


「ありがとう、ガノン。すまない、助かった」


「いえ、それよりコーデリアの応急処置を…………っ!」


 ガノンが何かに気づいたように後ろを振り返った。ユールもそちらを向くと、一匹のガルダが奇声をあげつつ猛然とこちらへ向かってきていた。


「……あれは」


 ガルダ乗りはいない。しかしそのガルダが誰のガルダかはすぐにわかった。ついさっきまであごひげが乗っていたガルダだ。


「知ってますか、ユールさん」


「え?」


 安全ベルトを外しながら、ガノンが問うてきた。


「乗り手を失ったガルダが、まれに乗り手を殺した相手に単独で襲い掛かってくることがあるんです。奇声を発しながら、自分の命を顧みずに、主人を殺した相手に復讐しにやってくる。そしてそれは」


 ガノンはスイミーの背の上で立ち上がる。腰に帯びていた剣をゆっくりと抜く。


「ガルダとガルダ乗りがとても強い絆で結ばれていたときに起こることだそうです」


 つまり、主人を失ったあのガルダがこうして奇声をあげて向かってくることは、あのあごひげを、このガルダがいかに大切に思っていたかの証左であるということだ。


 そのガルダは、ガノンの剣によって一撃のもとに伏された。

 返り血を浴びたガノンが、ようやく顔を出した月明かりのもとにさらされる。


「剣が、重い」


 ガノンのその一言が、ユールのお腹の奥の辺りに重くのしかかった気がした。


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