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空戦活劇 スカイスライサーズ  作者: 楽土 毅
プロローグ① スライサーズ
3/57

第3話 赤髪の悪魔

 上空をゆるゆると飛ぶ赤髪の少女のもとへ、金髪の少年が近づいていく。


「ごめんなさい姉さん。もうしませんから、どうか、どうかそれだけは」

「わかったから泣くなっつの。お前はちょっと大人しくしてろ。あとは私がやるから」


 目に涙を浮かべる少年の頭を軽く撫で、今度は赤髪の少女が船へと近づいてくる。船員たちは体を震わせながらも銃を構え直す。


「まったく、真っ先に船長を殺そうとするなんて。うちの弟はほんとバカだよ」


 少女を照準する。震えそうになるのを堪えてトリガーに指を添える。

 しかし撃てない。


 もし撃ったら、金髪の少年の怒りを買ってしまいそうで、みんな怖いのだ。「お前撃てよ」「いやお前が撃てよ」と視線で互いに牽制しあっている。


「こういうのにはやり方があるんだ。誰彼かまわず殺していいわけじゃない」


 そんな最中、少女の意外にも博愛あふれる言葉に、船員たちは少し心を緩めた。

 もしかして、彼女はそんなに悪い子ではないのではないか? そんな期待が生まれた。


 サウロたちのことは仕方が無い。先に攻撃を仕掛けたのは自分たちだからだ。少女たちがその攻撃に抵抗するのは当然だ。


 先ほどまでの嗜虐味あふれる表情や言動は、あくまで威嚇なのだ。無駄に血を流さないための。無駄な殺生をさけるための。きっと彼女は、自分たちを極力傷つけずに済むように、自分たちをああやって威嚇したのだ。


 先ほど金髪の少年が船長を殺そうとしたのを止めたのが、何よりの証拠ではないか?


 船員たちは銃口を軽く落とした。

 海賊といっても、同じ血の通った人間だ。

 こんなにも心優しい少女を撃つ気にはなれなかった。

 少女が口を開く。


「大切なのは順番だ」


 ――………………順番?


 船員たちの思考が止まった。

 それをよそに、少女が懐から何かを取り出すような仕草を見せる。


「真っ先に船長なんてやっちまったら、指揮系統が崩れてバラバラになっちまう。下手すりゃ戦意喪失だしな。そんな状態のやつらをやっつけても、楽しくないだろ?」


 ――…………あれ?


「私が二度おいしい殲滅のお手本を見せてやる! ちゃんと見とけよガノンっ!」


 やはりは少女は鬼畜であった。そのことを認識するのがあまりにも遅すぎた。

 少女が懐から取り出したのはビンだった。それを窓をぶち破るようにして操舵室に投げ込む。半拍もせずに操縦士が手足をぶん回して飛び出してきたかと思うと、直後に火の手が上がった。どうやら少女は火炎ビンを投げ込んだらしい。


「きゃははは! いっくぜ――っ!」


 少女らしい黄色い笑い声を上げたかと思うと、赤髪の少女は次の瞬間ガルダの背から転がるようにして落ちてきた。

 と、思いきや、空中で静止した。


 どうやらガルダの体と、少女の体とをロープで繋いでいたらしい。ガルダの三メートルほど下の辺りでぷらんぷらんと少女が揺れている。


 これをチャンスと見た海賊たちは気を取り直して銃をぶっ放す。慌てて火を消そうとてんてこ舞いになっている一部の男たちを除いて、それ以外の全てがたった一人の少女を殺そうと躍起になっていた。


 金髪の少年のガノンのほうは、姉の命令を素直に聞いて上空で待機している。心配そうに表情をあわあわさせているが、降りてくる様子はない。


 実質、一対四十だ。

 しかし少女は笑顔を浮かべていた。


「ひひ!」


 少女は中空で揺られながら、反りの強い二本の刀剣を慣れた手つきで構える。ガルダが滑空を始めると、その体にロープで繋がれた少女は、引っ張られるようにして降下してくる。


 このままでは少女が甲板に叩き付けられる――そう思った瞬間に、ガルダは絶妙なタイミングで姿勢を起こし、羽を羽ばたかせる。少女は甲板にぎりぎり足の先が掠める程度でとどまった。


 それだけではない。そのままガルダは甲板上を同高度で飛び続ける。甲板すれすれの状態で引っ張られ続ける少女はまるでマリオネット。しかし少女はそのままガルダに引っ張られるままに、ダンスでも踊るかのように刀剣を振り回す。


「き、来たっ!」


 その死を振りまく地獄のダンスが海賊たちに襲い掛かる。人間離れしたスピードで迫り来て、しかし的確に刀剣は海賊たちを切りつけていく。狙っているのかどうなのか、そのいずれもが致命傷ではないのがまた空恐ろしい。


「きゃは!」


 少女は返り血を浴びてご満悦の笑顔だ。


「……悪魔だ」


 船長がつぶやく。もはや戦意など残っていない。

 誰が言うともなく全員が武器を下ろし、抵抗することを止めた。


 幸い、武器を捨てたものにまで攻撃するほど、少女は狂っていなかった。

 いや、ただ単にそれが彼女の流儀に反していたというだけの話なのだが。


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