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空戦活劇 スカイスライサーズ  作者: 楽土 毅
第2章 犇めく海
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第25話 篝火

 そこからは早かった。


 キースは扉を突き飛ばすようにして廊下に出ると、一番近い窓からさらに甲板に出た。ユールも当然それに続く。


 その先には驚きの光景が広がっていた。


 甲板は火の海であった。あちこちに見張りの船乗りや騎士団員が倒れている。一番近くの船乗りにキースは走り寄っていった。


「大丈夫ですか、何があったんですか!」


 船乗りは返事をしない。呼吸はしているので生きてはいるようだ。

 キースがこちらを向いた。


「とりあえず伝声管でみんなを集めて、手当てと消火を。僕は――」


 不意にキースの言葉が止まる。彼は火の海へと視線を向けていた。


 ユールもそちらへ視線を転じる。


 そこには、見知らぬ男が立っていた。

 鼻から下を布で隠していて顔はよくわからない。手には火の照り返しと血とで赤く染まった二股の剣。

ユールは迷わなかった。


 謎の襲撃者に(おのの)く弱い心など当の昔に捨てた。姿勢を低くして突きの構えで火をものともせず突進をしかける。男は微動だにしない。こちらを見据える瞳もどこかうつろでちゃんと見えているのかさえも定かではない。


 不気味だが、ユールは臆すことなく刃を振るった。まずは刀を持つ右手首を落とし、続いて首に向け刃を振り上げたが、それが肉を捉えるぎりぎりで彼女は切っ先をぴたりと止めた。


「何者だ、貴様」


 ユールは低い声で尋ねる。


 男の目が少し動いてこちらを見据えた。


「俺の役目は終わった。さっさと殺せ」


「誰かの命令か。誰に言われた」


「答える義理はない」


 これ以上この男に構っている暇はなかった。こうしている間にも火の海は広がっている。


「何か言い残すことはあるか」


「ふふ、ああ……そうだねぇ」


 男は不敵に笑ったかと思うと、瞬く間に感情を失った顔になった。


「てめぇら鳥竜騎士団には前から一泡ふかせてぇやりてぇっと思ってからな。最高だよ」


「一泡? この程度でか?」


「わからねぇか」


 ユールが怪訝な表情を浮かべると、男は再び少しだけ笑った。「船の甲板でこんだけ火を焚けば、この暗い海の上ではさぞかし目立つことだろうよ」


 その意味するところを察したユールは一振りで男を片付けた。これ以上構っている時間はない。予想が正しければ、これは攻撃開始の狼煙でしかない。


 そのとき、船内から団員たちが次々と出てきた。キースが伝声管を使って呼んだらしい。


「ユールさん、これは――」


「団員は戦闘準備だ! これからこの火の明かりを目印に敵が襲ってくる可能性が高い!」


 今日は月も出ておらず、夜の海の上は真っ暗だ。この状況で甲板で立ち昇る火はよく目立つはずだ。


 先ほどの男は恐らく、グラナダ島を出港したときからこの船に乗り潜んでいたのだろう。そして火を放ち、仲間にこの船の位置を知らせた。これからもう間もなく、この炎の明かりを頼りに男の仲間たちが襲ってくるのだ思われる。


 もしかしたらそれはガルダ乗りの大群かもしれない。そうなればかなりの苦戦を強いられることになるだろう。


 団員はさすがの行動力だった。ある者は伝声管で怒鳴り声をあげて未だ寝ている団員を起こし、ある者はガルダに乗って周囲を旋回して敵の襲撃に備え、ある者は船乗りたちとともに消火活動を行い、ある者は襲われた船乗りや団員の治療を進めた。


 ユールは敵の迎撃組に加勢することに決め、出撃塔に向かった。そこへ。


「なんだ、なにがあった」


 ジャスミンだ。寝起きなのか、目をしょぼしょぼさせているガノンもいる。


 いいところに来てくれたものだ。二人はこの若さだが、強さはキースの折り紙つきだ。迎撃役が適任だろう。


「ついてこい」


「どこへだよ」


「カタパルトだ。これから敵が襲ってくる。私とお前らで食い止めるぞ」


「敵?」


「いいから来い」


 そのときである。「あの!」


 少し遅れてやってきたのは、同じジャスミン班であるティータとノックだ。二人は少しこわばった表情で続けた。


「私たちは何をすれば?」


「お前たちは消火活動とけが人の処置を頼む」


 ユールは迷いなく告げた。今は不測の事態だ。初陣とするには少々ハードルが高い。二人には船の中でやるべきことをやってもらったほうがいいだろう。


 ユールの指示を聞き、心なしかホッとした様子のティータとノックは大きく返事しつつ、敬礼をした。


「どうかお気をつけて!」


 ユールは頷きだけ返し、船内階段を上がってカタパルトのある三階へ。ジャスミンとガノンもそれに続く。


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