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空戦活劇 スカイスライサーズ  作者: 楽土 毅
第2章 犇めく海
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第24話 航路選択

 というわけで。


 ヴィルキス号と合流するまでの間、ユールの部屋はジャスミンとガノンに明け渡されることになった。それに当たって引越しを行わなければならなかったが、ユールの私物は衣類くらいなので手間も時間もかからなかった。そこはなんの問題にもならない。


 問題は、ユールのその引越し先がキースの部屋だということだ。


 団長室の奥にある小さな部屋がキースの部屋だ。机と本棚とベッドがあるだけの部屋。その机に向かってキースはペンを走らせている。


 ユールはその背後で控えていた。何もすることがないのだ。キースは先に寝ていいと言ったが、そういうわけにもいくまい。


 ユールは退屈にかられてキースの手元を覗き込んだ。そこにはキリニア海一帯の海図があった。自分たちの生まれ育った国ウォルガナも、グラナダ島も、これから向かうサンミニスト、エルデミアラも全て含まれている。


 キースはその地図の上から幾本もの線を引いていた。このアムール号がたどるべきルートを探っているのだろう。本来ならグラナダ島からまっすぐに北上していくのが最短ルートであるのだが、そこには大型海獣の巣があるため迂回する必要がある。俗に『コンコルダの巣』と呼ばれる海域だ。


 優秀なガルダ乗りで構成される鳥竜騎士団も、海の中にいる海獣たちには大変手を焼く。けして時間に余裕がある状況ではないが、さすがにこの巣は迂回せざるをえないだろう。


 しかしそれに関しては初めからわかっていたことだ。キースはなぜ今頃航海ルートについて頭をひねっているのだろう。


「なんか臭いんだよね」


 キースがペンを置き、そう呟いた。


 ユールは慌てて後退りつつ頭を下げた。つい先ほど風呂に入ってきたばかりなのだが、服を兵服から着替えていなかった。キースにお使えしている時間帯は常にその服装だからだ。それが臭ったのだろうか。


「申し訳ありません、すぐに着替えてまいります!」


「いや、臭いってのはそっちじゃなくて」


 キースは冷静にそう告げた。もう慣れたと言わんばかりだ。ユールはぽかんとした表情でキースを見る。


「迂回ルートがね。格好のはさみうち場所なんだよ。もし僕らの存在が海賊たちにバレてたら、ここを狙われるかもしれない」


 キースのその言葉に、ユールは背筋を伸ばし、海図の置かれた机に寄った。予定の迂回ルートを見てみると、確かにそのルートは西側に他国であるクーベルグの大陸、東側に『コンコルダの巣』を控える形になり、北側と南側から挟み撃ちされれば自分たちは危機に陥ることだろう。


 しかしその挟み撃ちをするとなれば、かなりの船数が必要となる。例の海賊たちがそこまで大規模なことを仕掛けてくるとは思えなかった。


「お言葉ですが、さすがにそれはないかと。これを実行するとなればかなりの戦力を振り分けなくてはなりませんし、そもそも彼らにそこまでの脳があるとは」


「海賊をなめちゃだめだよ。中にはキレ者もいるかもしれないし、彼らが僕ら騎士団のことを警戒しているのは事実だ」


 キースは一心に海図を見つめている。彼はまだ若いが、その聡明さに関してはユールが一番理解している。ユールは迷わなかった。


「かしこまりました。とりあえず見張りは増員し、騎士団のベテラン勢から二ペアほど哨戒任務に当たらせましょう。しかし」


 ユールは言葉を切った。キースも続く言葉はすでに予想していることだろう。


「今からの航路変更は難しいのでは? クーベルグはウォルガナに対してけして友好的とは言えないですし、その一方でコンコルダの群れもまた脅威です。そして時間的余裕もない。これ以上さらに迂回している時間は、もう」


「そうだね」


 キースは目をつぶり、考え込むようにした。そしてやがてこちらに顔を向けてくる。


「ルートは予定通りで行こうか。ただ哨戒のほうは四ペアだ。前方に二ペア。後方に二ペア。選考は任せるよ」


「かしこまりました。開始はいつから?」


「今すぐだ。哨戒には僕も出る」


 そう言ってキースは立ち上がり、上着を羽織りつつ、全団員の部屋へと繋がっている伝声管に手を伸ばす。


 そのとき、キースはふと動きを止めた。


「なんか焦げ臭いような……まさか」


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