第16話 拝命
キースたちの乗ってきた船の甲板に、鳥竜騎士団員一同が集まる。
正確には全員が騎士団員というわけではなく、サル顔をはじめとした雑用要員としてのただの船乗りもいるが、それを除けば、その大半がガルダを乗りこなす選りすぐりの戦闘員であるらしい。
その数、約二十人。現在鳥竜騎士団は二手に分かれて情報収集をしている最中らしく、もう片方を含めれば全員で五十人になるらしい。
そこにジャスミンとガノンを含めて、五十二人。これが鳥竜騎士団を構成する人員の全てだ。
「えーでは、昨日話した通り、これからいよいよ最終目的地であるエルデミアラに向かいたいと思います」
その五十二人をまとめるリーダーである、団長キース・カルシュタインがそう宣言した。一晩気を失っていたジャスミンたちには初耳だったが、正直目的地うんぬんには興味がない。
興味があるのは敵だけだ。無性に誰かを打ちのめしたい気分なのだ。手ごろなクズ集団でも出てこないもんかなとジャスミンは期待している。情け容赦なくボコボコにできるような、どクズがいい。
「それに当たって、途中でルドルフさんたちと合流しなくてはなりません。合流先はサンミニスト。多分着くのは明後日の夕暮れ前かと。そこで合流したら、エルデミアラに向かいます」
一同がうなずくなか、ジャスミンに耳打ちしてきたのは隣に立っていたガノンだ。
「エルデミアラに行って、一体何をするんでしょう。僕ら一体何をやらされるんですか」
ほんの半時間前に目を覚まし、大した説明もされないままこの場に立たされているガノンには、今のこの状況がちんぷんかんぷんのようだった。
無論、ジャスミンも似たようなものである。
「知らねぇ。ただ私らは戦闘要員として加えられたみたいだから、そういうことすんだろな。体の調子は戻しとけよ」
ガノンに限って心配はいらないだろうが、一応そう言い添えておく。
そんな小声でのやりとりの間にも、キースの説明は続いた。
「それから、もうご存知だとは思いますが、新しくうちの団員となったメンバーを紹介しておきます」
キースはこちらを見て言った。それに促されるように騎士団員一同もジャスミンたちのほうを向く。流れ的に何か言わなければいけない雰囲気だったので、とりあえず片手を挙げて、
「どーも、ジャスミンです」
「ガノン・ウォーレンです。よろしくお願いします」
軽くあいさつすると、パチパチと拍手が鳴った。
「うん、よろしく。みんな仲良くしてあげてください」
キースの呼びかけに、「うーす」と一同がにこやかに答えた。一国の防衛を司る騎士団とは思えない緩みようだ。
「それと二人の所属についてだけど、新たに班を一つ作って、ジャスミンちゃんにはそこの班長をやってもらおうと思ってます」
入団していきなり班長とは。かなりの人材不足らしい。まあ他人に指示されるのは性に合わないので、そういう意味では朗報だが。
「で、班名なんだけど、なんかつけたいのある?」
キースがジャスミンに向けて問うてくる。
そんな適当でいいのか、と思いつつも言ってみる。
「じゃあモンコ班で」
「それはもうあるから、別のでいいかな?」
「あんのかよ」
却下前提で言ったのに。あの最強集団と謳われる鳥竜騎士団にそんなふざけた班名が存在するとは。大丈夫なのかこいつらは。
「いや、普通にジャスミン班でいいよ。わかりやすいし」
「オーケー。そのジャスミン班にはガノン君と、見習いのティータさん、ノック君が加わる感じで。二人はガルダ乗り初心者だから、指導よろしくね」
「指導って、私がか?」
「もちろん。頼んだよ」
ずいぶんと信頼されたものだ。お世辞にも人に物を教えるのは得意とは言えないのだが。まあガノンを叩き上げた経験はあるし、何とかなるか。少々スパルタになるだろうけど。
つーか今更ながら見習いってなんだよ。ここは選りすぐりのガルダ乗りが集まる騎士団じゃなかったのか。