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空戦活劇 スカイスライサーズ  作者: 楽土 毅
第2章 犇めく海
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第15話 鳥竜騎士団

 そこには黒髪の少女がいた。年は自分と同じくらいか。そして。


「ガノン⁉」


 少女の傍らに立つサル顔の男が、縄で拘束したガノンを担いでいた。気を失っているのか、目を閉じて静かにうなだれている。

 その光景がジャスミンには信じられない。


 ガノンはジャスミンのためであればどんな逆境だって跳ね除けてしまう。今の状況だって、最終的にはガノンが何とかしてくれるだろうと心の中で思っていた。それなのに。


「まさか、ガノンが負けたのか? そんな、うそだろ」


 ジャスミンは銀髪の少年のほうに目を向ける。言外に、ガノンもお前がやったのか、と問うたのだ。

少年は、静かに首を横に振った。


「ガノン君を倒したのは僕じゃないよ、そこにいる彼女、ユールだ」

「こいつが?」


 言われて改め、ジャスミンは黒髪の少女のほうに向き直った。

確かに落ち着いた佇まいや物腰には年齢不相応なオーラがある。ただ者ではない雰囲気も。しかし、相手はあのガノンだ。


 ジャスミン自身、戦闘にはある程度覚えがあるほうだが、それでもガノンには勝てる自信がない。彼にガルダ乗りとしてのノウハウを叩きこんだのは他ならぬジャスミンだが、今やもうすでに手の届かない位置にいる。


 性別の違いも多少は関係しているかもしれないが、それはまた別の話だろう。優れたガルダ乗りの中には女性だってたくさんいる。特にガルダ乗りは身軽であることが要求されるため、男性よりも女性のほうが向いているという意見もある。


 この目の前の少女も、その一例なのだろうか。


「確かに多少てこずらされたのは事実だが、結果は見ての通りだ」


 ユールというらしい黒髪の少女はこともなげに答える。


「なにか卑怯な手を使ったんじゃねぇだろうな」

「卑怯な手? そんなもの使うわけが――」


 ジャスミンの問いに対するユールの答えが、一瞬詰まった。


「ないだろう」

「おい、今一瞬詰まっただろ」


 ガノンが負けたという事実は受け入れがたいが、状況からして自分が不利にあることだけは間違いない。ジャスミンの味方は、世界でガノンだけだ。彼以外の助けは期待できない。


 そこで話が戻るわけだが。


「で、ジャスミンちゃん、決心はついたかい」

「ちゃん⁉ ちゃん付けだと⁉」と何やら殺気立っているユールのことはさておいて、ジャスミンはうなだれた。


 これはもう諦めるしかないのか。今までの自由気ままな生活――グラナダ島の近海に現れる海賊たちから、どこかで手に入れてきた財宝や金品を横取りして島の者に売りつけるなどの好き勝手をしていた生活が、ジャスミンは大好きだった。くそったれの幼少時代から抜け出して、ようやく手に入れた安寧の場所だった。


 それが、こんな形で終止符が打たれるなんて。

 しかし、この命令を承服しなければ、恐らくガノンに危害が及ぶ。それだけは避けたかった。


「わかったよ。ただし、ガノンは見逃してやってくれ」


 せめてものお願いだった。しかし銀髪の少年は首を横に振る。


「いいや、ガノン君も間違いなくエース候補、僕には彼も必要だ」

「な――」


 ジャスミンは顔を真っ赤にしつつ、しばし口ごもってしまったが、慌てて言い添えた。


「ま、待て、ガノンはこんな顔と(なり)だが、れっきとした男だぞ⁉」

「え、いや、知ってるけど」


 少年は不思議そうな顔をしている。この純朴そうな顔のどこに変態気質を隠しているのか。


「うそだろ……レベル高すぎだよ。ついてけねぇ……もういいよどうとでもしろよ」


 ジャスミンは全てを諦めた。もう何をしても負けな気がした。弱肉強食、それが今のこの世界の理だ。世界がこの男を認めるなら、自分は従うしかない。


「ああそうだ。最後にお前の名前を聞かせろよ。まだ聞いてねぇんだけど」

「あれ、まだ名乗ってなかったけ? これは失礼」


 銀髪の少年は一言謝ると、その名を名乗った。


「僕はキース・カルシュタイン。こんなだけど、一応鳥竜騎士団の団長を務めている」


 鳥竜騎士団。


 うわさには聞いたことがある、ウォルガナ王国お抱えの最強の騎士団だ。ガルダはただの鳥ではなく、畏怖の念をこめて『鳥竜』と称される。それが団名の由来だ。


 その団長がこんな少年だというのには驚きだが、一方でガノンやジャスミン自身が負けたことには得心がいった。それだけの相手であれば、負けてもしかたあるまい。背負っているものが違う。弟一人守れない自分が、一国を守る者たちにかなうわけがない。


「だから団長として、うわさに聞く『スライサーズ』を戦力に入れなくてはと思ってね。こうしてスカウトに来た」

「え?」


 今少し違和感を覚えた。

 スカウト、戦力、『スライサーズ』、エース候補――無秩序に組み上げられていたピースが、一度はじけて新たに組み上げられていく。改めてできあがったそれは、先のものとは大いにかけ離れていたものだった。


 ジャスミンはとんだ勘違いをしていた自分を恥じた。顔が耳まで真っ赤になる。


「あーあーはいはいそういうことね! そーかそーかお前団長やってんのか、そんで私らにその鳥竜騎士団に入れと? お安い御用だよバカ野郎。変な言い回ししねぇでちゃんと言えよな、マジで! 女に恥かかせんじゃねぇよ! 死ねバカ!」


 ポカンとしているキースに向け、ジャスミンは早口でまくしたてる。


「え、急にどうしたの?」

「るっせ! とにかくお前は猛省しろ! 次やったら殺すからな!」

「えー、全然話が見えないんだけどなぁ」


 要領を得ない様子のキースだが、説明してやる義理はない。というか恥ずかしい。キースの言い方も悪かったと思うが、そう解釈してしまったのはジャスミン自身だ。このことはジャスミンの胸の内に残し、やがて忘却されるのを待つだけ。きっと時間が解決してくれる。


  ジャスミン・アルフレッド。

  ガノン・ウォーレン。


 両名はめでたく鳥竜騎士団に迎え入れられることとなった。


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