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空戦活劇 スカイスライサーズ  作者: 楽土 毅
第1章 光と影の邂逅
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第12話 デュアル

「やるつもりなら、まずはその手に持ってるものを何とかしろ。それでは戦えないだろう」


 ユールはガノンの腕の中を指差す。そこには未だ盗んだ食べ物が残っている。言外にそれを捨てろと言ったのだ。


「それはできません」


 しかし、ガノンははっきりと首を横に振った。


「ジャスミン姉さんは、お腹すかせて待ってるんです。僕がこれを届けるのを待ってるんです」


 そういうとガノンは右手に持っていた串焼きを一口で食べ、右手を空けた。空いた右手で懐の拳銃を抜く。肉でいっぱいの口を開けて、ガノンは続けた。


「あああなんが、ががででうーうんでう(あなたなんか、片手で十分です)!」

「食べ物を粗末にしないのは、いいことだ」


 ユールは背中に手を回して刀を抜く。

 ガルダ乗りとしては珍しく、銃の類は使わない主義だ。


「だが、命も粗末にするなよ?」


 ユール・サーナイト。鳥竜騎士団団長護衛にして、団内での戦闘員としての実力は上位五本の指に入り、かつその中で最強と謳われるキースに匹敵する戦闘術を持っていると言われている。


 負ける気はしなかった。

 コーデリアは横転してガノンの射線から逃れ、高度を落とし、下方からガノンの乗る紅のガルダに迫る。


 このように下に回り込まれると、銃では狙いづらい。ガノンもそのままで狙うのは諦め、紅のガルダを横転させて、一度こちらから距離をとる動きを見せた。


 しかしユールは容赦しない。こちらは近接武器オンリーだから接近しなくては話にならない。一応、投擲用の麻痺毒付きのナイフと、軽い衝撃で炸裂する手投げ玉は持っているが、飛距離は知れている。


 初めて見たときの印象通り、やはりこの紅のガルダ、直線のトップスピードはかなりのものだった。まさにシューティングスター。一度スピードに乗ると、コーデリアの速度では追いきれなくなる。


 しかし、ガルダ乗り同士の戦い、特に一対一の場合、肝になるのはトップスピードよりも、細かい機動力だ。その点において、コーデリアはキースの相棒トイズ以上に長けていた。


 そして、この紅のガルダよりは遥かに、だ。


 建物に挟まれた路地に逃げ込むガノン。しかし入り組んだくねくねの道は、コーデリアの方が得意としていた。あっという間に距離を詰める。ガノンは後方へ銃口を向け、ユールたちに向けて撃って来たが、難なく交わした。


 ――この程度なのか?


 勝利を確信すると同時に、ユールは失望を抱き始めていた。


 あのキースが期待したうちの一人、ガノン・ウォーレンは、こんなものなのか。すごいのはせいぜい、紅のガルダのトップスピードくらいのものであろう。騎手であるガノン自体に特別な脅威は感じない。こんなレベルのガルダ乗りをわざわざうちの騎士団に招く必要があるのか。


 そんな無意味な憶測に囚われてしまっていた自分を、ユールは数秒後、猛省することとなる。


「ナナ、食べ物は任せたよ」


 そんなことを、ガノンが紅のガルダに囁いた瞬間だった。

 ユールは、ガノンがいつの間にか安全ベルトを外していることに気づいた。


 信じられないことだった。

 自殺行為に近い。彼はもういつ振り落とされてもおかしくない状況だ。


「バカ者、何を考えて――」


 そう諌めようとしたとき。

 不意に、紅のガルダが姿勢を変えて急接近してきた。


 ガノンが刀剣を抜く。

 見たこともないような構えで力を溜めるような仕草をし、そして、なんと自らのガルダの背を思い切り蹴りつけ、ガノンがユールへ切りかかってきた。


 ユールの目の前で赤い火花が散る。鍔迫り合いによるものだ。

 重い一撃だった。

 紅のガルダも、コーデリアも時速百キロ以上の速さで飛んでいる。その速度が生み出す、馬鹿げたまでの相対速度を載せた斬撃は、ともすればユールをコーデリアの背から振り落としかねない一撃だった。


 ユールは何とか威力を殺して、後ろへ受け流した。真正面から受け止める必要などない。ここで振り落とせば、ガノンはもう地に叩きつけられるだけだ。


 後ろを振り返りその光景を確認しようとしたユールの表情が、やがて驚愕に染められる。


 結論から言えば、ガノンが地面に叩きつけられることはなかった。ガノンは、いつの間にやらユールの背後で待機していたらしい別のガルダの背に降り立っていた。


「ありがとう、スイミー」


 こげ茶色のガルダは「クウ」と鳴いた。

 返事をしたらしい。それを見て、このこげ茶色のガルダがガノンにちゃんと懐いていることがわかる。


 つまり、これは。


「……デュアルライダー、なのか?」


 二匹のガルダを操るガルダ乗りのことである。


 しかし、その実在については(よう)として知れず、ユールの中では伝説上のものだった。誇り高きガルダは、自分の主が他のガルダにも乗ることを良しとしない。よほどの信頼関係がなければ成り立たないものである。


 それを、こんな少年が。

 目の前で起こっていることが信じられない。

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