第10話 消えた団長様
「キース様がいないだと⁉ いつからだ!」
着港、もうまもなくというところである。
グラナダ島の住人を肉眼で確認できるほどの距離に来たところで、例のサル顔の部下からユールはその報告を受けた。
「わかんねっス。気づいたらいなかったって感じで。トイズもいません」
トイズとは、キースの相棒である黒きガルダである。
「ということは、キース様はトイズに乗って、一人先に島に行ってしまわれたということか」
「そうなりますなぁ」
緊張感のないサル顔の返答に苛立ちを覚える。キース様の身に何かあったらとは考えないのか。
「バカ者! なぜしっかり見張っておかなった!」
「いや、俺ただの雇われ船乗りですし。つーか団長の直属の護衛ってユール様スよね?」
「え」
「ユール様こそ何してたんスか。なんでそばにいなかったんスか?」
「そ、それは」
ぐうの音もでない。護衛の自分がキースの傍にいなかったのがいけないのだ。トイレなど我慢していればよかった。
「悪いの俺じゃないスよね? ユール様スよね」
「う、うるさい! とにかくお前は他の船員にも呼びかけて船内を捜索しろ! いいな!」
「よくないスよ。ちゃんと謝ってくださいよ。今ので俺けっこう傷つ――」
「悪かったから! 後で詫びはするから今は従ってくれ!」
「イエスマム!」
侘びをする、という言葉を聴くなり急に素直になってサル顔は駆け出していく。詫びと称して、いったい自分に何をさせる気なのか。などと考えるのはすべてが済んでからだ。
ユールは団長室を出て、そばの階段を二段飛ばしで駆け上がる。三階まで上がると、廊下を一気に突き進んで、奥から二番目の部屋に扉をぶち破るようにして駆け込む。
中にいたのは濃紺色のガルダだ。
ユールの相棒、名はコーデリア。
トイズや、他のガルダの平均体長に比べるとかなり小柄で、トップスピードも控えめだが、細かい機動の得意な優秀なガルダだ。
言葉はいらなかった。
ガルダは言葉を話すことはできないが、ある程度の人語を解す。なのでガルダへの命令は基本的に言葉で行う。
しかしそれでも、今は言葉は無用だった。
事態を察した様子のコーデリアは、体を斜めに向けて、すでにユールを待ち受けていた。その背に向けて飛び乗ると、コーデリアは軽く羽ばたいて移動する。
その先には一本の丸太があった。
それに飛び乗ると同時に、さらにその先にあった木製の扉が自動で大きく口を開け、キリニアの海を見せる。
ユールはベルトを慣れた手つきで締めると、上から垂れ下がっているロープを引いた。するとコーデリアが乗っかっていた丸太が駆動して、開いた扉のほうへ――キリニア海の洋上へと引っ張り飛ばしてくれる。
バネの力を利用したガルダ乗り専用簡易カタパルトだ。ほんの十数メートル分の助走だが、このアドバンテージがぎりぎりの戦いの中では勝敗を分ける。船から射出される瞬間に、コーデリアはすでにトップスピードに達していた。