魔界遠征軍第三部隊隊長
大餓達がいる町の近くの人間の陣の中での出来事です。
大小さまざまな岩が無数に転がている茶色い荒野に、中に民家を建てることができそうなくらい大きなテントが一つ建てられていた。
その周りには五百名ほどの人間がそれぞれの仕事をしている。
人間の軍隊が陣を敷いているのだ。
テントの中では、魔界遠征軍第三部隊隊長である『アレウス』が独り、仕切りの裏にあるベットの上で眠りについている。
「失礼します」
そこに一人の鎧で身を包んだ兵士がテントの中に入って来た。
兜で顔が覆われているので、顔は分からない。
「今ちょっと手が離せないんだ。そこで待っとけ」
「はい」
返事は返って来たが、何かをしている気配は無い。
兵士は何かを考えているのかと思いその場で三分ほど待っていたが、少し不安になったので口を開く。
「あの、どれくらい待てばいいのでしょうか?」
「後ちょっと。半日、半日だけ寝かして」
その言葉を聞いた兵士は、「またか」と、上官の前という事を忘れて、ため息をついてしまう。
だが、すぐにきお取り直してアレウスが寝ている仕切りの裏に回る。
そこには、そこそこ美形で、金髪の青年がベットの上に大の字で倒れていた。歳は二十代前半だろう。
貴族だろうが、みっともない乱れた服のせいで無邪気な平民の少年にも見える。
「アレウス隊長、起きてください。今日は魔族どもの町に夜襲する日ですよ」
「あ?俺は眠いんだ。今日は丸一日ぐーたらするって決めてんだ。
今日一日だけお前に俺の持つ全ての権限をお前にやるから、お前が好きに夜襲でも何でもしとけ。これは命令だぞ!」
「はぁ。」
アレウスはかなり困った人だ。部下達もこんな人が上官だと大変だろう。
「分かりました。今の発言を隊長のお父上に報告しておきますね。」
「親父に?やめろ!これは命令だ!」
アレウスは慌てて起き上がり叫ぶ。
「はは。命令?御冗談を。今の隊長には私に命令できるほどの権限はありませんよ。
今日限りは私が隊長であなたは兵卒ですから。」
「ぶ、無礼な!」
「魔界遠征軍第三部隊隊長である私に向かってその態度は何だ?無礼だぞ!衛兵、こいつを牢に入れとけ!」
兜のせいで表情は分からないが、口調から楽しんでいるという事が分かる。
それでも、衛兵への命令は命令だ。
アレウスは目に見えて分かるほど、真っ蒼になってしまう。
「「はっ!」」
嬉しそうな声と供にスキップしながらやって来た衛兵二人がアレウスの腕を掴む。
「お、お前ら、離せ!俺は隊長だぞ!」
「何言ってるのかな?兵卒君。隊長はあの方だぞ」
「そうそう。隊長はあの方。君は無礼者。」
「何を言っておる。俺が隊長だ!」
「さぁ!寝言なんか言ってないで牢屋に行くよ!」
「そう!牢屋に行くよ。スキップ♪スキップ♪」
「やめろぉ!」
衛兵たちは楽しそうにアレウスを連れて行ってしまった。
これが少佐にとっていい薬になってくれたらいいが…
そう思いながら、自分以外誰もいなくなったテントを見渡す。
すると、アレウス少佐の制服を見つけることが出来た。
しかしその制服は、床に敷かれた絨毯の上にぐちゃぐちゃに脱ぎ捨てられている。
さすがにこれを着たくはなかったので、階級を現す勲章だけを手に取り、自分の鎧に取り付ける。
「失礼します」
「何だ?」
他の兵士がテントに入って来たので仕切りの表に出た。
アレウスではない兵士が仕切りの奥から出て来たので、テントに入って来た兵士は首を傾げる。
「失礼ですがあなたは?」
「アレウス隊長の命により、今日限り魔界遠征軍第三部隊隊長を務める事となったアクロトスだ。他の物にも伝えてくれ」
アクロトスと名乗った兵士は兜を脱ぎ、自分の顔を相手に見せた。
兜の下から現れたのはアレウスよりも数ランク上の美貌を持った金髪の青年だ。
歳はアレウスよりもほんの少し上だろう。
相手の兵士は、一瞬だけアクロトスに見とれてしまう。
それでもすぐに我に返り、口を開いた。
「そうとは知らず、失礼しました。」
「構わん。本来の階級は君と同じだ。緊張しなくてもよい。
で、用は何だ?」
「偵察部隊が偵察中に遭難中の青年を保護いたしました。」
「何を言っている?ここは魔界だぞ!我らのような軍人以外の人間がいるはずがない!」
「ですが事実です。」
兵士の真剣な様子にアクロトスはこの兵士が嘘をついていないと確信する。
「その者は今どこに?」
「この陣の中です。」
「それなら、その者が魔界で遭難した経緯を本人に聞いてくれ。その者が持つ情報が何かの役に立つかもしれん。」
「分かりました。隊長も同席なされますか?」
「いや、私は他にすべき事があるので同席しない。何かあれば呼んでくれ。」
「了解。では、失礼して。」
アクロトスは退出しようとする兵士を呼び止める。
「あ、そうそう。念のためあれを使え。」
「あれとは?」
「最新鋭のあれだ。」
「あれですね。」
「そうだ。」
二人の顔に笑みが浮かぶ。。
「では。」
「頼んだぞ」
兵士は一度敬礼してから退出した。




