ゲス、初陣に挑む
この肉片は不味いなんて生易しい味ではない。
ネチョっとしたソースは胃袋から口にリバースしてきたアレの味だし、ドロドロの肉は油分が強すぎて気分が悪くなるほどなのに、鋼鉄の様に固い筋が無数にある。
これはもはや食べ物ではない。ただの危険物だ。
「おえぇぇぇ」
大餓は喉の奥から上って来た物を吐き出してしまった。
それほどの危険物だ。
「わぁ、汚い!汚さないでくださいよ!掃除するの私なんですからね!」
大餓の口に肉片を無理やり入れたステラが、理不尽な怒りの矛先を大餓に向ける。
これ食わしたのお前だろ。俺は悪くない。全てお前が悪いんだからな!
と、言い返そうとしたが、新たなる吐き気にその言葉はかき消された。
「下賤で卑しい人間に高貴なる魔族の食の美が理解できないのは分かります。」
また始まっちゃたよ。ステラの愚痴。
ステラは残りの肉片を美味しく食べ、今は汚物の処理をしてくれている。
その処理の方法も地球の人間とは違って全て魔法で行っている。
雑巾などを使った掃除よりも魔法の方が手っ取り早いのだろう。
ゴミも消せるし。
それにしても、ステラの丁寧さは素晴らしい。
自分より下等だと思っていて種族的には敵対関係にある人間のために、ここまでできるのは凄い事だ。
いまの地球にこのような人はいないかもしれない。
だが、愚痴はやめてほしい。
俺は悪くない。
はぁ。
「私が心を込めて作った料理を拒絶するなんて無礼すぎますよ!」
お前がこの毒物に込めた心とは何だ?恨みか何かか?
口に出したら後が怖いので口には出さない。
「わかったわかった。俺が悪かった」
「そうです。あなたが悪いのです。」
謝るんじゃなかった。
掃除も終わったみたいだし、話題を変えよう。
「なぁ。あの大穴、大丈夫か?それと、さっきお前に吹っ飛ばされたあいつらも大丈夫か?」
「大穴?何の話かしら?」
「ほら、あれ。」
大餓が指差す穴が開いていたはずの壁は、一の間にか元通りに修復されていた。
「それとあの人達は大丈夫です。宮廷魔導士はあの程度で死にません。そのうち帰って来るでしょう。」
ならいっか。あいつらが死んでいたとしても俺は悪くないし。
「俺はもう寝る。どこで寝ればいい?」
「ここ。」
「寝具は?」
「無いと眠れないの?貧弱。まあいいわ。あなたは一応客人だし、ハイ」
突如、頭上に出現した謎の魔法陣からから干し草の山が降って来た。
「どうぞ」
「これは何だ?」
「人間界の干し草です。」
「それは分かっている。で、これを何に使うのだ?」
「寝具です。」
「誰の?」
「あなたの」
は?これをどうしろと?
「人間界ではこれを食べ、これの上で寝るのですよね?」
「ああ。多分それ、家畜の話。」
「え!?人間は人間を家畜にするのですか?」
「違う違う。人間が人間を家畜にしているなら、それを家畜とは呼ばない。きっと奴隷と呼ぶはずだ。」
「へぇ。ややこしいですね。」
どこが?
「明日は早い。俺は寝る。」
「はい。おやすみなさい。」
ステラは一礼して退出した。
大餓は床よりはましかと思い、干し草の上に寝転んだ。
干し草って、チクチクするが柔らかいな。
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明るいな。どうやって灯を消のだろう。
「ステラ。灯を消してくれ」
「ハイ!」
扉の奥でステラの元気な声が聞こえた。
その声がこの部屋に存在する光という光を消滅させた。
だが、煙の臭いが少し臭い。
それでも、あの肉片よりはましだと思うとだいぶ楽だ。
これで眠れる。
そう思った時、緊張から解放された大餓に睡魔が襲いかかった。
「軍師殿、起きているか?」
国王陛下のやかましい声が大餓の快眠を妨害する。
「ああ。起きているぜ。」
眠い目をこすりながら返事をする。
「作戦開始だ。」
扉を開け、水牛の化け物は入室した。
昨日ステラに吹っ飛ばされた魔導士四人組も一緒だ。
そして、バファロに殴られていた、たんこぶ魔導士が大餓に何かを握らせる。
「これが例の物か?」
「そうだ。」
「軍師殿、用意はいいか?」
「いつでもいいぜ」
見つめあう大餓とバファロ。
「ところで、なぜおぬしの服は、そんなにボロボロなのだ?」
「作戦の一部だ。」
本当の事は言いたくないので適当に嘘をついた。
「いくぞ!」
「ああ!」
「「「「扉!」」」」
たんこぶ魔導士以外の四人が叫ぶ。
こいつらの魔法は安全なのだろうか?
昨日も、扉を間違えていたから不安だ。
そんな大餓の不安は、足元に出現した怪しく輝く魔法陣の光にかき消される。
数秒後、魔法陣が光を失い、風に吹かれ跡形もなく消滅した。
大餓と共に。




