ゲス、攻撃魔法の恐怖を知る
「ぶ、無礼な!」
場を静寂という名の独裁者から解放したのは、頭の上に大きなたんこぶを乗っけている魔導士だ。
「そうだ、そうだ!」
「人間のくせに生意気だ!」
「口を慎め!」
ほかの魔導士達も場の流れに乗じて抗議を始めた。
「うるさい!皆の者、静まれ!」
水牛の様な化け物の一喝が場を静める。
「まあ、よいではないか。軍師殿は我が軍門に下りたいといっておるのだ。言い方は問題ありだがな。」
我はこれを受け入れようと思う!」
大餓の望み通り、こいつは大餓を受け入れた。
「そうだ。軍師殿、自己紹介がまだだったな。
我が名は『バファロ・フィル・グランテーゼ』この国の主だ!」
「ぷっ」
「ん?どうかしたか?」
吹き出しそうになるのを必死でこらえる大餓。
『バファロ』って、『水牛』とそっくりだな。
この人(?)の親は、見た目で名前を付けたのかな?
「国王陛下がお名乗りになられたのだ。
人間、貴様も名乗らぬか」
ん?今『国王陛下』って言った?
え?
もしかして、この人は王様?
王族の仮装じゃなかったんだ。
「ホラ!早く名乗らんか!」
ハイハイ。名乗ればいいんだろ?
「俺は『神喰 大餓』だ。」
堂々と名乗る大餓だったが、大餓以外の全員がなぜかキョトンとしている。
面白いことを言ったが、全く笑いをとれなかったみたいで恥ずかしい。
「フハハハハハ、人間は変わっているなぁ。
家名が『虎』だなんて…」
何故みんなキョトンとしていたかやっと分かった。
この世界の名前は『家名+名前』ではなくて『名前+家名』なのだ。
だから『大餓』が家名だと思われたのだ。
だからって、そんなに笑うことないだろ!
このたんこぶ魔導士め!後で天誅だ!
とりあえず今は落ち着かなくてはいけない。
深呼吸、深呼吸。
「違うちがう。『大餓』が名前!」
「何!?貴様『タイガー』と名乗っているのか?
軍師殿がナルシストだったとは…」
「ちぃがあぁう!」
絶叫する大餓。
こいつ…天誅だけでは足りないようだな。
○○○○を○○して、○○○○の○○○にしてやる!
大餓の中で目のどす黒い思考回路(二つ目)が誕生した瞬間である。
「ふっ。皆の者、こやつの名前で遊ぶのをやめて会議を続けるぞ。」
ああ?
こいつ…俺の名前について文句を言って自分で笑っていただけじゃないか!
今ここで殺して…
はっ!?
俺は一体何を?
いけない、いけない。
俺よ!ここは冷静になれ!
そう自分に言い聞かせ、落ち着きを取り戻す。
「それでは、作戦を説明する。
だが、その前に、一つ聞きたい事がある。」
「何だ?」
人前ではロキと名乗ることにした大餓は、不思議そうに床に広げられた地図を指差して言う。
「これのどこが、人間に包囲されているといえるんだ?」
地図を上にある人間の配置を表している石を見ると、町から少し離れた場所に人間が陣を敷いているのが分かる。
人間は一か所に集まって陣を敷いているので、この町の近くに人間の軍がいるが、包囲はされていない。
「それがな、この町は城壁に囲まれていてな、
だからこの、たった一つしかない城門の前に陣を敷かれたら、包囲されたのと同じなんじゃ。」
「あほかあぁぁ!」
大餓はたんこぶ魔導士に、『抜け穴の必要性の説明』を始めたのだった。
「はぁ、やっと終わった。」
馬鹿どもへの説明が終わった後、作戦を説明し終わった大餓は、大きく伸びをする。
「大餓よ、作戦開始までの間、貴様はここで生活するがよい。
風呂と便所はそこに繋げておいた。」
バファロ国王が指差す方の壁を見ると、いつの間にか赤くて立派な扉が出現していた。
実はこの人、すごい人なんじゃ…。
大餓は初めてそう思った。
「何かあれば、もうすぐ来るメイドに言えよ!」
それだけ言い残すと、魔導士五人を引き連れて、赤い扉から退出した。
さてと…
大餓は元々は無かったはずの扉の先を確認するため、扉に近づく。
「な!?」
「どうした!?!」
国王の心底驚いたような声が聞こえたのでそちらを見てみると、トイレの便座を見つめる水牛もどきとその他、五名の姿があった。
この便座の形は、地球にある和式便器と同じ形だ。(残念ながら水洗ではない)
地球の物と違う点は、地球の物の二倍ほどの大きさがあり、石造だ。
「あれ?間違えた。」
バファロが間の抜けた声をだした。
「陛下、しっかりしてくださいよ」
「ああ…。
ん?ちょっと待て、この扉を開けたのはお前だろうが!
我に濡れ衣を着させるな!」
ボカ!
「ご、ごめんなさい。(泣)」
魔導士の頭のたんこぶがさらに大きくなった。
「全く…。お前は…主に罪を擦り付けるとはどういうことだ!」
バファロの説教が始まった。
「はぁ…。陛下もあいつも、困った人だなあ」
「そうだな…」
「我々がしっかりせねば…。」
「本当の出口はこちらだというのに…」
怒られている魔導士をかばいもせずに、他の四人の魔導士はもう一つの扉を開ける。
だだし、出口じゃない方の。
こいつらもしっかりしてないな。
魔導士の一人が扉を開けようとドアノブに手を伸ばすが、ドアノブに触れる前に扉は勝手にゆっくりと開く。
そして、中から大量の湯気があふれ出てきた。
こっちは風呂か…。
ちょっと待て、湯気が出てきたという事は誰かが今…。
いや、誰かが湯を沸かしてくれているだけという可能性も……………。うん。そうだ。そうであってほしい。
大餓の願いも虚しく、いい方の読みは当たらなかった。
それでも、悪い方の読みが当たったならよかったと思える。
少し後に発生する大惨事は、大餓が考える最悪の場合(中にいた人に殴られる)よりもなお酷かった。
大惨事の直前、
扉の奥では、男なら誰もが一生に一度は見たいと願っている光景が広がっていた。
そう!
扉の奥に一人ポツンと立っているステラの裸体を拝むことができたのだった!
入浴直後の少女の体からは白い湯気が上がり、体の一部を隠す黒いタオルが肌の白さを際立たせている。
白き双峰のサイズを三段階で表すと『小』だが、『小』の中では大きい方だろう。
背中からキュッと引き締まった小ぶりなお尻へと続く優雅な曲線美は、相手が人ならざる者だという事が分かっていても誰もが見とれてしまいそうなほどだ。(性欲を破壊された大餓は例外)
そして、ステラの顔は今にも爆発しそうなくらい赤くなっている。
「だから、陛下は乱暴すぎます!」
「我がお前を殴るのは、お前が悪事を働くからだ!」
「陛下、どんな理由があっても…」
大餓とステラと魔導士四人の時間が止まっている間にも、王様と魔導士の言い争いは続き、そのまま二人は言い争いながら出口から退出した。
ガチャンという扉が閉まる音と同時にここにいる全員が我に返った。
「俺はお前の裸体なんて見ていない」
「「「「我々も!」」」」」
目線を反らして自分を弁護する大餓を見た魔導士達は、一瞬の狂いもなく同時に叫ぶが、
「何言ってるのよ!変態!覗き魔!汝等に死を爆・重圧!」
ステラは少しも話を聞いてくれない。
それどころか、余裕で人が死ぬ威力の攻撃魔法をこちらに放ってきた。
大餓は「俺は巻き込まれただけなのに理不尽だあぁぁぁ!」
と、心の中で絶叫しているが、客観的に見れば当然だろう。
複雑な年頃の女の子がいきなり自分の裸体を男性に見られたのだ。それも大勢の男性にだ。
怒らないはずがない。
だが、ステラほどの暴挙に出る女性はいないだろう。
壁の後ろに隠れたステラが放った攻撃魔法『爆・重圧』は、巨大な爆発を起こし、その爆風で相手を吹っ飛ばすというか、押しつぶす魔法だ。
この爆風はある程度の指向性を持っており、破壊力を一方向に集中させることが出来るため、殺傷力がとても強い。
少し前なら、殺傷力の強さが分かるいい実例の当事者になることができた。
その実例とは、四人の魔導士に破壊力の本流がもろに直撃してしまい、吹き飛ばされた魔導士達が壁に激突した衝撃で壁一面が砕け散り、四人は暗い紫色の空の彼方のお星さまになってしまったという事件だ。
普段の大餓なら、『なぜ魔界の空は紫色なのだろうか?』と、一人であれこれ考えていそうだが、大餓はとある研究に熱中しすぎて敵から逃げる事を忘れていたアルキメデスではない。
大餓は今、この時を生き延びることだけを考えている。
解説 アルキメデス
入浴中にとある大発見をし、それがうれしくて裸で走り回ったとされる科学者。
自分がいた街に敵軍が攻め込んで来たことも気にせずに何かの研究を続け、部屋に入って来た敵に兵士に「私の書いた図形を乱さないでくれ!」と言って兵士を怒らせ、その兵士に殺された人。




