ゲスの決意
「さぁ、人間と魔族の関係を答えろ」
食べられてしまった物は、もう戻ってこないとカステラの事を諦めた大餓が尋ねる。
「最近になって人間は魔族の、いいえ、魔界の町に攻め込んでくるようになりました」
この世界の名前は魔界というらしい。
「一つ質問がある。魔族からは何もしていないのか?」
「ええ。私の知る限りでは…
そして人間は降伏を一切認めず、女や、子供も見境なく殺しています。
私の母も…人間に…」
ステラの目から涙が流れ出てくる。
だが、いくらなんでも、理由もなく殺戮するという事はないだろう。
ステラの思い違いであると思いたい。
「人間がよく使う戦法とかは分かるか?」
「いえ、そこまでは…」
「人間が落とした町などの数は?」
「十をこえています。」
「多いな…その町は今どうなっている?」
「魔法で荒野にされてしまいました。」
何?町を荒野にしただと…それでは町を落とした意味がない。
人間の目的は領土拡大じゃないのか?
もし、領地が目的なら、町を破壊する必要はないはずだ。
「その魔法は、簡単に使えるのか?」
「いいえ。人間なら最高位の術師が三十人ほどで十日ほど時間をかけて発動するものです。」
うわぁ!不便な魔法だな。
そうなれば、町を破壊するのには何か理由があるはずだ。
町を破壊する理由は…その町があっては困るから。
町があるときの人間側が困る理由は、そこを拠点にされると攻略するのに時間がかかるからだろう。
なら、自分たちが拠点にすればいい。
それをしないという事は…何かの理由で急いでほかの都市に攻め入る必要があるのか?
「人間が魔族の食料を奪取した事はあるか?」
「はい。一度。でも、それはゴミとして捨てられていました。きっと口に合わなかったのでしょう。
それ以来、食料は町と一緒に消されています。」
敵地で大切な兵糧を捨てるなんて…魔界の食料とは一体?
「軍師殿。作戦会議を始めてもいいか?」
「ああ、いいぜ」
あの水牛の様な化け物、仕事が早いな。
本当は一時間前から作戦会議の準備が出来ていたことを大餓は知らない。
「それでは、私は退室します。」
ステラが言う。
「ああ。そうしてくれ。」
この作戦を聞くの者は出来るだけ少ない方がいいもんな。
ステラと入れ違いであの貴族っぽい化け物が入って来た。
俺が召喚された時にいた魔導士五人組も一緒だ。
俺達七人は魔導士の一人が広げた地図の周りに座る。
「これより、軍師殿を招いての作戦会議を始める!」
作戦会議が、大餓の戦いが今、始まった。
まずこの会議の主導権を握る。
だが、皆は人間の事を味方だとは思っているはずだ。
このままでは意見を聞いてもらえない。
どうにかして相手の見方だと思わせないと…
「どうして人間と戦になったのかを教えてくれ。」
「無論、そのつもりだ。」
口を開いたのは意外な事に、俺の事を悪く言いまくっていた魔導士だ。
「ひと月前、何の前触れもなく人間が魔界に攻め込んできた。
もう既に十二の都市が文字通り消滅している。
人間どもの戦法はこうだ。」
ステラとは違い、戦法も教えてくれるようだ。
「まず、町を包囲し、兵士全員が遠距離攻撃魔法を嵐の様に放ち、一時時間以内に町を壊滅させている。
その時に人間どもが使う遠距離攻撃魔法が不思議な魔法で…」
オイオイ、不思議じゃない魔法なんてあるのか?
突っ込みたかったが、まじめな空気なのでやめておく。
「一発の効果範囲は狭いのだが、当たった場所が消滅するという魔法なのだ。」
元々、重かった空気が一段と重くなる。
「なあ、その話、我も初耳なのだが…」
化け物が言う。
「あれ?陛下には話していませんでしたっけ?」
「馬鹿者!我は『人間どもがいくつかの都市を壊滅させた』としか聞いておらんぞ!」
「アハ、アハハハ…」
「笑って誤魔化すな!」
ボカ!
化け物に殴れれてしまった魔導士の頭から、握り拳二つ分の大きさのたんこぶが生えてきた。
そして痛そうに頭を抱える。
自業自得だ。
皆がこいつを蔑むような目で見ている。
「ちょっと待て、魔族からは何もしていないのか?」
「ああ。人間などに手出ししても何も利益が無いからな」
ステラの言う通り、魔族からは何もしていない様だ。
「人間は、見境なく魔族を殺戮したのか?」
「ああ、攻撃された都市には戦う術を持たない赤子や女もいた。
その者らが逃げ延びた痕跡はない。」
「マジかよ…」
涙目で頭を抱える魔導士の言葉に愕然とする大餓。
幼少期に父を交通事故という形で殺された大餓は『死』対する思いが人一倍強い。
だから大餓は激怒している。
殺された者達は言葉では表すことが出来ないほどの恐怖を味わったに違いない。
それどころか、恐怖を感じる暇もなく惨殺された者もいるだろう。
大餓の心の中に黒く燃え滾る闇の炎が宿った。
魔族を見境なく惨殺した人間に生きる価値は無い。
だが殺しはしない。
死は憎しみを生み、憎しみは新たな争いを生み、争いは更なる死を生む。
これはただの悪循環だ。
それでは何の解決にもならない。
害獣どもを世界の果てまでもお追い詰めて俺が罰を下す。
大餓は固く決意する。
「お前ら。俺の手足となれ」
怒りが込められてはいるが、静かに、そして強く言い放たれた大我の声が、場を静寂へと導いた。




